大人になったと思ったことは、
「大人になったなと思ったこと、教えてください」
19歳のときに、フリーペーパーの取材を受けた。
私は友達と相談して、「一人暮らしをはじめたとき」と画用紙に書いて、二人で写真におさまった。
そうして出来上がった紙面には、みんなの様々な、大人になった瞬間がのっていた。
ピアスを開けたとき、バイトで褒められたとき、今日お仕事お休みなんですか?と聞かれたとき……。大学生向けのフリーペーパーだから、どれも可愛いものだ。
そんな私が10年経って、ここ数年で大人になったと思ったこと。それは、
「食器にときめくようになった」こと。
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ちょっと前まで、漫画や服を物色するのが好きだったのに、いまや食器を見に行くことが、私にとって特に心踊るウインドウショッピングの仕方になった。
紅茶を飲むようになったことと、結婚祝いに、カップ・ソーサーやグラスを頂いたのがきっかけかもしれない。
お揃いのカップ、色使いが好みの模様、キラキラしたカッティング。
お客さんに出すのもワクワクするし、カップの一セットは贅沢にも、普段づかいして楽しんでいる。
自分で揃えたモノなんてほぼないし、他のお皿は大手インテリアショップで大量生産されたものだけど、そうやってほんの少し可愛いものがプラスされたおかげで興味が倍増したのだ。
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ときどき、食器店をのぞく。季節で変わるテーブルコーディネイトが、おしゃれで真似をしたくなる。
これとあれを揃えて、あのカップを合わせて、ここにお花を飾って。
あのランチョンマットいい色だな、いつか買おう。
木の器ってあったかみがあるな、安いの探してみよう。
なんて、ときめきながら考える時間が楽しい。
いつか素敵なティーカップを集めて、小さなガラスの棚に並べて、今日はこのカップにしましょう、なんて言いながら選びたい。
食器屋さんにあった、陶器のペガサスの像を飾って、お茶しに訪れたお客さんを出迎えたい。
そんな夢が広がっていく。
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一人暮らしをはじめたことを、大人だと思っていたときは、食器を可愛いと思うことはなかった。
それよりは自分を可愛いく見せる服が欲しかったし、楽しませてくれる何かがほしかった。
外側から内側へ、楽しませてもらうより自分から楽しむ方へ。
そんな変化が、またひとつ大人になったかなって思う。
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あと5年くらいしたら、きっと「こんなことで大人になったと思ってたんだー」と懐かしく思うだろう。画用紙に書いて、写真を撮っておこうかな。
次に大人になったと思うことは、どんなことなんだろう。
いつだって、楽しいことで大人になったと感じていたいなと思う。