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《馬鹿話 709》 玉子焼き
おせち料理が綺麗に並べられた食卓で、家族が新年を祝った。
幸せな家族は、両親とそして女の子がひとり。
父親はおせち料理を食べながら、女の子に料理の話をした。
「この中に入っている食材にはみんな意味があるんだよ」
「黒豆には魔よけの意味があるから、まめに働き、まめに暮らすという意味で。この田作りのイワシの子供は、昔田畑の肥料にイワシが使われていたから、お百姓さんが豊作を願ったんだよ。数の子は赤ちゃんが一杯できますように、みんな幸せになりますようにと言うことなんだよ」と説明した。
女の子は重箱に入っていた玉子焼きを摘まんで「卵を産み続けていた鶏が、卵を産まなくなったらどうなるの?」と父親に尋ねた。
父親は困った顔をして「肉にされるのだろうね」と答えた。
「じゃあ、数の子のお母さんは?」と少女は尋ねた。
「お母さんは食べられちゃうんだ」と父親は正直に答えた。
「卵を産んじゃうとみんな食べられちゃうんだね」と女の子は言った。
女の子は母親を見ながら「ねえねえ、人間は?」と尋ねた。