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《馬鹿話 722》 大黒さんと黒ねずみ
ある日、海岸に大きなバッグを肩に掛けた大黒さんが通り掛かると、浜辺で、しくしくと泣いている大きな黒いねずみがいました。
大黒さんはねずみに尋ねました。
「どうしたの?」と、大黒さんがねずみに聞くと、ねずみは沖を指して、「あいつらに騙されました」と言いました。
「あいつらとは?」と、もう一度大黒さんはねずみに聞き返しました。
「海の向こうからやって来た悪党共に身ぐるみ剥がされてしまいました」とねずみは答えました。
大黒さんは、ねずみが可哀想になり、肩のバッグから、綿でできた白い服を渡してくれました。
すると、ねずみはこんなダサい服は嫌だと言い出しました。
そこで、大黒さんはねずみに言いました。
「どんな服ならいいの?」とねずみに聞くと、ねずみは「これから寒い冬が来るので、暖かい毛皮が欲しいです」と言いました。
大黒さんは毛皮など持っていませんでしたから、海岸近くで泳いでいた亀に尋ねてみました。
「毛皮があるとことを知りませんか?」と亀に聞くと、亀は近くで泳いでいた鮫に「毛皮があるところを知らないか?」と言いました。
鮫は「毛皮なら対岸の国に行けば手に入る」と教えてくれました。
「では、その国に行ってみましょう」と大黒さんは言いました。
「よろしかったら、わたしがその国まで連れて行ってあげます」と鮫は親切そうに言ってくれました。
大黒さんは、ねずみにここで待つように言って、鮫の背中に飛び乗りました。
大黒さんは鮫に跨ると、背びれをしっかりと掴みました。
鮫はものすごいスピードで対岸に向かって泳ぎ出しました。
亀は「ああ、また連れていかれちゃったよ」と謎の言葉を残して、海の中に消えて行きました。
海岸でねずみは、大黒さんの帰りを今か今かと待っていましたが、何十年も過ぎてしまい、今ではすっかり白い毛になってしまいました。
しかも毎日、大黒さんの帰りを待って海を見ていたので、目も真っ赤に充血し、大黒さんの呼ぶ声を聞き逃さないために、耳も長く大きくなっていました。
そんなある日、ねずみは海の向こうから大黒さんの声がしたような気がしました。
「帰って来たよ」と大黒さんは叫んでいました。
ねずみは嬉しくて、直ぐに大黒さんの元に駆け寄りましたが、大黒さんは駆け寄ってきたのがねずみだとは気付きませんでした。
「ここにいるはずのねずみはどこに行っちゃったの?」と大黒さんはねずみに聞きました。
「わたしがあのときのねずみです」とねずみは答えました。
「うそだぁ~」と大黒さんは言って、ねずみに「お前は今日から、うさぎと言う名前にしたら」と言いました。
ねずみから、うさぎになったねずみは、「いったい、今まで何処にいたのですか?」と大黒さんに尋ねました。
大黒さんは照れながら、「ら・ら・ら」と唄い始めました。