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《馬鹿話 716》 コタツトンネル
赤い光の中に吸い込まれるように、僕のトラックはトンネルに入った。
子供の頃、赤外線の電気コタツに潜り込むと、そこには別の世界があった。
コタツに掛けられた厚手の布団を中から眺めると、岩肌に吹き付けられたコンクリート壁のようにも見え、僕にとって巨大なトンネルになった。
「光の方が出口だ」と僕は、コタツのトンネルに持ち込んだ、おもちゃの車を走らせては、真っ赤な光の中で空想の世界に遊んだ。
「中を見た」と母の声がして、正面のトンネルの出口と思っていた場所が急に明るくなり、誰かの膝小僧が入って来た。
僕の世界を邪魔するものは誰もいなかったが、その日の朝は違っていた。
「大変だ」と僕は車を持ってUターンさせ、トンネルの中で別の出口を探した。
ぐるぐるしていると、コタツの中に小さな箱が置かれていることに僕は気づいた。
「これは何だ」と、僕は箱の中をそっと開けてみた。
中身は、僕が前から欲しいと思っていた、大型トラックのミニカーが入っていた。
「サンタさんからのプレゼントらしいわよ」と母の声がした。
「あの日は、クリスマスだったんだ」と、僕は帰りのトラックを走らせながら、小さい頃の出来事を思い出していた。
つけっぱなしのカーラジオから「午前3時をお伝えします」と時報を告げ、続けて聞き覚えのある曲が流れ始めた。
「いつかのクリスマス」と僕は、曲に合わせて歌った。
しばらくすると、赤い光の向こう側に黒い闇が見えて来た。
プレゼントは「ミニカーで良かったかな」と考えながら、赤い光の長いトンネルを、僕は抜けた。
夜明け前にトラックを営業所に運ぶと、どうにか家に辿り着くことができた。
「まだ寝てるよな」と僕は妻に確認してから、コタツの中にプレゼントの大型トラックのミニカーを入れた。