《馬鹿話 698》 クリスマスの贈物
サンタが用意したプレゼントを子供たちに配り終えて帰ろうとしたとき、袋の中に残った贈り物を見つけた。
「おや、これはどうしたことだ?」とサンタは首を捻った。
サンタは配り終えたばかりのプレゼント先をひとつずつ思い出してみた。
「おかしいな。用意したプレゼントは全部子供たちに配ったはずだ」
サンタは暫く、考えてから「すると、袋の中に去年のプレゼントが残っていたと云うことか」と呟いた。
サンタは去年配ったプレゼント先の子供たちのことを思い出してみた。
「そうだ、そう言えば、あれは去年一番最後に届けたプレゼントだった」
サンタはその時のことを思い出した。
クリスマスの夜、少年がサンタに送った手紙に書いてあった野球道具を贈ろうとしたときだった。
「あれ程、グローブを欲しがっていた少年が、プレゼントを突き返してきよった」とサンタは呟いた。
「今日はまだ時間もあることだし、ひとつ予定にはなかったがあの少年の元を尋ねてみるか」とサンタは思った。
サンタはトナカイのそりを飛ばして、少年の家にやって来た。
少年の家の窓から部屋の中を見ると、確かに去年の少年がいた。部屋の中には、少年の弟妹と思われる子供達五人が、両親と共にテーブルを囲んで食事をしていた。
食卓には、温かいスープと黒パンが置かれ、子供達は父親から分けてもらったパンを大切に少しずつ指でちぎっては、母親が皿によそってくれたスープに浸して食べていた。
クリスマスだと言うのに、七面鳥も無ければ肉の欠片も置かれていない食卓だった。
サンタは部屋の様子を伺いながら、少年がプレゼントを断った訳が分かった。
そして、他の子供たちのプレゼントを用意してこなかったことを後悔した。
サンタは、いつもなら煙突から入るのだが、今日は玄関から入ることにした。
玄関のドアをノックすると、母親が驚いた顔でサンタを迎い入れてくれた。
サンタは少年に「今年はみんなのために特別なプレゼントを持ってきた」と告げた。
そう言うとサンタは、家族の座るテーブルの片隅に、そりから持ってきた小さな椅子を取り出して腰掛けた。
「今年のプレゼントはみんなで分けられるぞ」とサンタは言った。
子供たちは目を輝かせてサンタを見つめた。
サンタは「それでは、まず初めに君からプレゼントしよう」と言って、少年に声を掛けた。
少年は何が貰えるのかと、サンタを見た。
サンタは少年に、これまでに出会った遠い国の子供たちのお話をし始めた。
最初に少年には、北極で出会った父親とアザラシを捕るために、氷の海に出る勇敢な猟師の少年の話をした。
少年のすぐ下の妹には、中国の山奥で勉強をしながら二日も掛かって学校に通う少女の話をした。
その弟には、ブラジルの街角でサッカー選手を夢見て毎日ボールを蹴っている少年の話をした。
またその下の妹には、オーストラリアの森でコアラの赤ちゃんをカンガルーと一緒に育てている少女の話をした。
一番下の弟には、モンゴルの平原で鷹を飼う父親とその後を追う少年の話をした。
サンタはみんなに話し終えると「どうじゃ、お話はみんな気に入ったかな」と言った。
そして、サンタは立ち上がると「いつも子供たちに贈っているプレゼントは、いつか壊れたりなくなったりするが、お話は決してなくならん」と言って帰って行った。