《馬鹿話 697》 プレゼント
それは雪の降り積もった寒い晩のことだった。
布団の中に深く潜り込んだ男の子が、小さな声で独り言を呟いた。
「サンタクロースなんていやしないよ!」
その心の声に、男の子が住む家の側をたまたま通り掛かったサンタクロースが、トナカイに曳かせたソリから降りて来て、男の子の寝姿を確認すると大きく頷いて言った。
「坊や、その通りだ!」
男の子は何処からともなく聴こえて来た声に驚いて跳び起きた。
声がした方を探して見てみると、雪明りが照らす窓の外に、相撲取りのような年老いた大男が立っていた。
しかもその男は見るからに赤ら顔の外国人で、顎や口も白髭で覆われていた。
男の子は老人を見ると腰が抜けて声も出なかった。
すると老人は、「ワハハ、確かにその通り」と言い残し、ソリと共に夜空に舞い上がり何処かに行ってしまった。
やがて、男の子は成人になり、「あのとき、自分は本物のサンタクロースに出逢ったのかも知れない」と思うようになった。
成人になった男は家庭を持ち、男の子供も生まれた。
男の子が六歳になった時だった。
その年の雪の降り積もった寒い夜。
男は男の子を寝かしつけるためベッドの枕元に来ると、「サンタクロースはきっといるよ」と優しく言った。
すると、男の子は、「サンタクロースなんていやしないよ!」と答えた。
男は自分の子供を見て、「どうして、こんなに夢のない子になったのだろう」と深い溜息を吐いた。
その晩、男が寝ていると「コンコン」と誰かが窓を叩く音が聞えた。
男がその音に驚いて跳び起きると、男が子供の時に出逢った白髭の老人が窓の外に立っていた。
サンタクロースが男の元を四十年振りに訪ねて来たのだ。
男は声も出ない程驚いて腰が抜けた。
「これは、あの時渡し忘れたあんたへのプレゼントだ」
そう言うと、サンタクロースと思える老人はリボンの付いたプレゼントを男に手渡した。
男はサンタクロースの存在を信じない自分の子供に、長い間信じていれば本当のサンタクロースからのプレゼントが貰えることを伝えようと思った。
男はサンタクロースに、「このプレゼントは自分の子供に渡しても良いだろうか?」と尋ねてみた。
するとサンタクロースは、「やめたほうが良いと思うけど」と答えて、今度も夜空の彼方に消えて行った。
男が老人から貰ったプレゼントを開けると、四十年前の当時子供達の間で大流行した「わらべ」が歌う「めだかの兄妹」のEPレコード盤が入っていた。