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《馬鹿話 706》 雪だるま
公園の真ん中に、誰が作ったのか分からないが、大きな雪だるまが置かれていた。
「最近やっと分かって来たんだけど、世の中には結婚しない人と、できない人がいるんです。結婚しない人は相手のことが分かっている人で、結婚できない人は相手のことが分かっていない人なんですよね」
そう言うと、雪子は足元の雪を丸めて雪だるまに投げつけた。
「じゃあ、君はどっちなんだい」と賢二も雪だるまに雪玉を投げた。
「私は、結婚出来ない人」と雪子は笑って、雪を拾い上げた。
「別に相手のことなんか分からなくてもいいじゃないか。相手だって君のことを全部分かっている訳じゃあないだろう」
賢二はそう言うと、雪だるまにまた雪玉をぶつけた。
「そうだ、雪だるまに雪子が結婚できるか訊いてみよう」と賢二が言った。
「どうやって訊くの」と雪子は手に持った雪玉を雪だるまに投げた。
雪子の投げた雪玉は見事に雪だるまの顔面に命中した。
「ほら、雪だるまがウインクした」と言って賢二が笑った。
「ほんとだ、目をつぶっちゃった」と雪子も笑った。
「だろう、雪だるまが何を思っているかなんて、誰にも分からないものさ」と賢二が言った。
雪だるまは思った。
「早くあっちへ行ってくれ。話を聴くだけで溶けちゃう」