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取り調べ資料10【神楽坂交通事故】

宮崎県延岡市
神楽坂、7丁目、交差点前。

蝉の声がうるさく聞こえる。心地よい香り。手に残る、温かい感触。
ずっとこのまま、いたいと思った。入れると思った。想って、いた。







目の前で人形のように弾け飛ぶ、自分と同じくらいの背丈の子。
心地の良かったはずの香りが、酷く汚い鉄の匂いに変わる。
温もりは熱いくらいに変わり僕の手からだんだんと体温を奪っていく。
あぁ、本当に…本当に。




どうしてあの時僕も死んでおかなかったんだろう。













これはまだ僕が幼少期、まだ宮崎県延岡市に住んでいた頃の話である。
もーいい!!お家でてく!!!!!!!
何が気に入らなかったかなんて今更覚えちゃいない、大方、姉と喧嘩したとか、父親が遊んでくれないとかの八つ当たりを母にしていたんだろう。
くだらない、ただの一般家庭だ。






ひぐっ…あぅ…うぁ…
どうしたの?君、大丈夫?
う…だぃ…ょぅぶ…!
うふふ、泣いてちゃわかんないよ〜、ほらこっちむいて?

それが、僕と彼女の出会いだった。


ほらもう泣かない!
………てない....
え?
泣いてない!!!僕は男なの!!!!泣いたりしないし!!!!
え?あはは、君、泣いてないことないでしょ?じゃあ!このハンカチはどうして濡れたの〜?
うるさいな!!勝手に話しかけておねーちゃん面するなよな!!
あぁ、ごめんね?嫌だった?
いや別に…嫌じゃないけど…
ふふふ、ねぇ君、名前は?
え?、えっと〜、しろつち!!しろくんってよばれてる!
ふふ、私は遥、東雲遥、よろしくね?
……まぁ、よろしく…
ふふふ、君とは初めましてだけど、この公園にはよく来るの?
公園…??
…?

ここで自分が迷子であることに気づく

ここどこ?ママは??
え!!?君迷子なの??
え?あ!!いや!家出してるの!だから迷子じゃない!
あら、家出してるの!??じゃあ今日はお家帰らないの?
ママが!ママが迎えきてくれるし
でも家出したんでしょ?ママには言ったの?
いや…家出だし…
じゃあどうやってお母さんは迎えにきてくれるの?
それは!!!…それは……ぅ…ぁ…
あぁー!!!わかった!!私も一緒にお家探すから!!!!もう泣かない!!!!男の子なんでしょ??
でも、お家どこかわかんない…
とりあえずきた道戻ればわかる道があるかもでしょ、どっちからきたの?
…わかんない…
……うぅん…


3個上のおねーちゃん、東雲遙。
彼女はその日夜まで一緒にお家を探してくれた。
結局お母さんが僕を迎えにきてくれて、遥ねぇちゃんも、お母さんが車で送って、その後東雲さんのお家に謝り、僕はしこたま怒られた。


そこから遥ねぇとはよく遊んでもらうようになった。
しっかり公園への行き方も覚えて、毎日遊んでもらってた。
遥ねぇはよく笑う子で、なんでも楽しそうで、歌が大好きで、綺麗な声で、いつも誰にでも優しかった。
でもそんな遥ねぇは、1人の時はいつも、悲しそうで、僕はそんな遥ねぇが嫌だった。




その日は特に曇った顔をしていて、ずっとどこか上の空で。そんな遥ねぇがいやで



遥ねぇ、どうしたの?
え?うぅん…ちょっとね…
どうかしたの??なんでも言って!僕男だから守ってあげるよ!!
ふふ、馬鹿、泣き虫のしろくんが、私を守れるわけないでしょ?
はー!!?泣き虫じゃないし!!!そんなこと言うならもう遥ねぇなんて知らない!!せっかく気にかけてあげたのに!!
あ〜?ごめん、も〜拗ねないでぇ?
ふんだ!
ねぇ、しろくん。あのね…
うん?、なに?
もし…もし、その、お母さんとお父さんが離れ離れになるんだったら、どっちについて行くべきだと思う?
え〜、僕は…僕はぁ…うーん…ぱぱは優しいけど、いつもお家にいないし、ママは、いつもゲームの邪魔してくるし…無理やり勉強させてこようとするけど…でもやっぱり僕、ママが好きかなぁ、だって優しいし、ご飯も美味しく作ってくれるんだよ?、そうだ!遥ねぇ、今度ご飯食べにおいでって言ってたよ!!今度さぁ…!!
ママが…優しい…か。


それからしばらくして、遥ねぇのお母さんが死んだことを知った。ストレスで起こした脳梗塞かなんかだったと後で聞いた覚えがある。かなり昔のことなのでもう正確には覚えていないのだけど。

それから僕は遥ねぇに元気を出してもらうためにどうしたらいいかいっぱい考えた、考えて考えて、きっと、また一緒に遊べば笑顔になってもらえると思った。だからまた、遊びに行こうって誘った。でも、遥ねぇはずっと、悲しそうな顔でため息をつくばかり。

ねぇ?遥ねぇ??
………ん?何か言った?
遥ねぇは…遊ばないの?
…あぁ…ごめんね。うん、ちょっと足が痛くて…
もー!弱いなー!女の子は!せっかく遊んであげようと思ったのに!!
ふふ、そうだね、ごめんね…こんなで
え!あぁ!!いやいや!!遥ねぇが悪いんじゃないよ!!なんか落ち込んでるから!元気出してほしくて!!
ふふ、わかってるよ、ありがとう。

ねぇ、しろくん。
なぁに?
人は…死んだらどこに行くと思う?
えっとね、お星様になるんだよ!たしか、パパが言ってたし!!
私は…いい子になろうと頑張って、頑張って頑張って、ぱぱもそんな私に優しくしてくれた。頑張っていい子になろうと思っていろんな人を助けてあげて…なのに。なんで??なんでママがいなくならなきゃいけないの??ママはなんでお星様になっちゃったの??じゃあ私は…私は誰のために…優しくて…いい子に…な…褒め…

…遥…ねぇ??泣いてるの…?
…しろ君は、私のこと、好き?
え?あぁ…!えっと…うん。
そっか…ごめんね、頑張って慰めようとしてくれて…
そんなんじゃ…!!!
ううん、でも私パパのためにもいい子じゃなきゃいけないから!もっと頑張る!大丈夫!立ち直る!!
本当!!?じゃあ一緒に!!

ザー!!!!

うわ!!急に雨強くなってきたね…
ごめんね、遥ねぇ、俺が外で遊ぼうなんて言ったから。
え?ううん、ありがとうしろくん、あのままずっとお家にいた方がかえって落ち込んでたと思うし、少し楽になったよ。
でも、こんなにぬれちゃって…
まぁ、しばらく、ここで、雨宿りしてるしかなくなっちゃったね…あはは
僕…傘とってくる!!!
え!?いいよしろくん!大丈夫だから
遥ねぇは女の子だから!!濡れたらダメなんだよ!風邪引いたら悪いし!
そんな…私はおねぇちゃんだから大丈夫だよ?
もぉ〜!!家も近いし!僕が行く!!!!ねーちゃんを誘ったのば僕だもん!!責任とって行く!!
ちょっ…あっ!!しろくん!!まって!
うるさいなぁ!!!!
しろくん!!しろくん!!!!!!!


しろくん!!

まってしろくん!!!!


!!!!!!!!!
あぶない!!!




彼女の家庭の事情だとか、彼女がどんな気持ちでいたかとかを知るのはもっとずっと後の話で。
そもそも何が好きで、どんなことを思っていてだとか、そんなことすら結局もうわかりはしないのだけれど。わかりはしないのだけれど。












サイレンの音、鉄臭い匂い、手についたドロドロ、だんだんと冷たくなっていく遥ねぇ。



僕はその後のことを知らない。


僕は、僕は、僕は…







僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。僕は、その後のことを知らない。僕はその後のことしらない。僕は、その後のことをしらない。











遥かねぇは、僕なんかよりも、みんなに優しくて、正しくて、綺麗で、いつも笑ってて。




ねぇ、遥ねぇは?




遥ねぇは???





もう会えないだなんて知らないよ。
僕の遥ねぇを返してよ
なぁ!!お葬式ってなんだよ!!!!








君がしろくん…池川堊くんかい。
君が飛び出して、それを庇って娘は亡くなったんだそうだね。
娘は、君を好いていたよ、私が守るんだって張り切ってね、毎日楽しそうに話を聞かせてくれた。
とっても根が優しい男の子で、ちょっと生意気だけど、毎日遊びに来る可愛い弟分だと。
素敵だねぇ、嬉しかったよ、母が亡くなった娘が、元気を出せるかと思って、君と遊びに行くという話を聞いた時は嬉しかったんだけどね。
残念だ、まぁ、君だってまだ、何もわからんのだろうが。私は愛する妻を失って。また、愛娘まで失ってしまった。私の愛娘は君の身代わりになったんだそうだか、私の心の傷はいったい誰が埋めてくれるのだろうね、誰が身代わりになってくれるのだろうね?別に怒ってなんかいないんだ。ただね



よくもまぁ、抜け抜けと葬式に顔が出せたものだね、池川くん。


どうして君が




どうして君が生きていて娘が死ななければならんのだろうね。
君のせいで娘が出かけるなんて言うから娘は死んだんだよ。池川君。







君が死ねば良かったのに








ここから出ていけ!!!!























君が殺したんだ、私の娘を…
この人殺しが







お前が死ねば良かったのに、人殺し!!!




























罵声を、怒号を、まだ夢に見る。


僕は人を殺してしまった。

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