書評:今泉みね『名ごりの夢』と日本人の時間
今泉みね『名ごりの夢――蘭家桂川家に生れて』(平凡社、東洋文庫、1963)
図書館で偶然手に取った本書は、昭和10年に、当時80歳だった老母による維新前後の回想を息子の今泉源吉がまとめたものだが、これがとても面白い。副題にあるように、洋医者の娘だった著者は、幼い頃、福澤諭吉におんぶしてもらったという家庭環境に育った。私がとくに感動したのは、潮干狩りに関連して、著者が次のように述べている箇所だ。「昔の人は今の人とちがって、ただなんでもじいっと見入る。なにしろゆっくりしたもので