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読前メモ リアル・メイキング

いかにして「神」は現実となるのか。

本書は福音派キリスト教徒(Evangelicals - アメリカ人口の25%を占めるトランプ大統領の強力な支持基盤)の民族指摘研究に由来している。基本的な主張は以下の通り:

神や霊、つまり目に見えない他社は人々にとってリアルな存在にされなければならず、この現実制作(リアル・メイキング)がそれを行う人々を変化させる。

私がこの本を手に取った経緯はAmazonが「仏教は科学なのか 私が仏教徒ではない理由」という本と一緒に購入されている、と教えてくれたからで、その本は、「自我の源泉」という本を「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリさんが、現代ビジネスのインタビューで勧めていたから調べていたら、同じくお勧めされたから。ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」も好きだしね。

以下は議論のステップ:

  1. 人は神や霊を(簡単には)信じない
    人は、日用品が現実であるように、神や霊がリアルであるように振舞うことはない。人は恐怖や驚きを感じた時、素早く、簡単に、自動的に、目に見えない存在に関する考えを生み出すが、それを深く信じるためには、特別な思考、予期、記憶の方法で世界を解釈しなければならない。これを「信仰の枠組み」と呼ぶことにするが、これは世界を理解する通常の方法と共存し矛盾する。神はあなたの離婚を止めてくれないから、信じることは簡単ではない。

  2. 詳しい物語は、神や霊をリアルに感じさせるのに役立つ
    豊かで具体的なディテールを持つことで、見えない他社が臨在すること作業に説得力を与えることができる。物語は、見えない他者を人々と交流できるキャラクターとして紹介し、話し、語り返してくれる事を体感させる方法を提示する。

  3. 才能と訓練が重要である
    想像することに没入する人は、目に見えない他者についてパワフルな体験をする可能性が高く、祈りや儀式の間に想像する事に没頭する訓練も、目に見えない他者を体験する可能性を高める。没入(absorption)は内的世界と外的世界の教会を曖昧にすることで、人が世界を理解するために信仰の枠組みに頼ることを容易にし、自分の感覚で感じとるという仕方で、見えない他者の臨在を経験させる。

  4. 心についてどう考えているかもまた重要である
    神や霊に関する内面的な証拠は、自分のものとは思えない思考、風に乗ってささやくような声、そこにいるのに視界が届かないところにいると感じられる人など、内的意識と感覚的世界の間の空間からもたらされる。特定の社会に属する人々が、思考や感情、意図、欲望というような人の内面を文化的モデルにマッピングする方法を提供する事で、そのような瞬間を感覚的で外的な、神々や霊が存在する証拠のように感じさせる。

  5. 応答の感覚は「発火」(キンドル)する
    これまで述べた感覚は、細やかな注意の実践というような燃え殻からだけではなく、スピリチュアルな存在を燃え立たせる為の、神の声を聴いたり、霊を見たり、死者の存在を感じさせる瞬間から得られ、それらは他人の証言に頼らない証拠になるので信じる人にとって重要で、信仰の枠に手を伸ばす事を助ける。

  6. 祈りの実践は、人々が自分の思考に注意を払う方法を変える
    祈りとは、考えることについて考える行為で、認知行動療法士がクライアントに自分の思考に対する注意の仕方を変えるように指導するように、祈りは祈るひとが自分の思考に向かう方法を変える。これは、現実制作(リアル・メイキング)が人を変える第一の拡張例と言える。

  7. 人は神や霊と関係を構築する
    人は、訓練し、目に見えない他者がよりリアルになるにつれ、その他者と自分自身を再び、親密で感情に溢れた関係づけを構築し、「信念」という言葉で捉えきれない。現実制作(リアル・メイキング)がうまくいくと、人は神を特定の方法でリアルにして特定の関係を気づくが、それはある意味、すべての社会的関係と同じように行きつ戻りつする特性を持っている。一旦実在すると、人々がリアルに感じるものを、他の神と関係を持つ他宗教の人々と劇的に異なる仕方で変え、信仰の枠組みを日常世界に根付かせる。これが第二の拡張例である。

この本は、人間が自分の世界を認識するためのフィルターとなる「心(mind)」について人類学的に分析するもので、神や霊の実在性に言及するものではない。神や霊との関係は、懐疑論者であっても信仰者であっても、明らかに複雑で曖昧なものであり、皆「現実会(the Real)」に直接アクセスする事は出来ない。ただ、人が神や霊をリアルなものにし、目には見えないけれど、生き生きと感じられる存在との関係を発展させたときに、どのように変化するのかを説明する。

以下は目次:

  1. 信仰の枠組み

  2. パラコズム(空想の世界)を作る

  3. 才能とトレーニング

  4. どのように心が問題なのか

  5. 神々と霊の反応に関する五つの証拠

  6. 祈りが効く理由

  7. 応答する神


人が何かを信じることの意味を、人が信じることによってどのように変化していくのか、プロセスを分析する事で解き明かすという事なのかな。でも、このような仕組みによる権力と悲劇は世界中で繰り返されてきた気もする。

何かの熱狂的なファンになる事で繋がる心理(ファンダム)は、日本では「推し活」という強烈にキャッチーな言葉を得て市民権を得つつある。ヨーロッパのサッカーファンが暴徒化したり、トランピアン(トランプ主義者)が国会議事堂を襲撃したり、そういう外に向くファンダムに比べて、日本の推し活は商業的でマニアックではあるものの、隣の人が理解できない現実を誰もが選び取ろうとしている流れで、それが何を意味するのか、どう対処していくのか自分で意見を持っておきたい。

少し前に、中国兵法の勉強をしていたことがあり、その中で太平天国の乱を学ぶ機会があった。

太平天国の乱、歴史の授業が名前だけ聞いたような覚えがある、洪秀全という人が、入試に連続失敗して挫折して臥せっていたら、夢に「上帝」が出て来て、あとでプロテスタントのパンフレット見たら、あれは「God」だったんだ!、と謎の理解をし、宗教に目覚め、清朝を潰そうと軍事蜂起をした内乱です。

洪秀全はたびたび院試に失敗したため、約40日間病床に臥せていたが、その間不思議な夢を見たという。その夢とは、上帝ヤハウェと思われる気品漂う老人から破邪の剣を与えられ、またイエスらしい中年の男から妖を斬る手助けを受けたというものだった。洪秀全は病が癒えてから広州に受験で訪れた際、そこでプロテスタントの勧誘パンフレット『勧世良言』を入手し、以前に見た不思議な夢の意味を「理解」し、キリスト教に目覚めることになる。この不思議な夢とキリスト教の接合は、ロバート・モリソンが聖書を翻訳する際にゴッド(God)を音で表記せず、「上帝」という訳語を与えた為起こったと思われる。洪秀全はキリスト教の教えの中でも特に上帝が唯一神であることを強く意識し、偶像破壊を熱心に行った。元々多神教的な土地柄である中国では儒教・道教・仏教にまつわる廟が多かったが、それらを破壊し、ただ上帝だけをあがめることを求めた。そのため郷里広東省での布教活動は一族と数人の賛同者を得ただけで成功しなかった。洪秀全は効果的な布教方法を模索せざるを得ず、「原道救世歌」や「原道醒世訓」という布教文書を著した。

拝上帝会の興隆

上記の洪秀全が亡くなるのは1864年、残党も1868年に壊滅し1870年代で鎮圧された。死者数は被害が大きかった江南三省(江蘇、安徽、浙江)の江蘇だけも2000万人を超えると言われる。

直観的に感じる「信じる」ことの恐ろしさは、本書の言葉では、どのような「信仰の枠組み」を非明示的・明示的を問わず受入れようとしているのか、という事になるのだろうか。前述のハラリさんの言うところの、「虚構」と「現実」の区別。

人間社会の根本にあるものは、男女関係であれ、宗教や国家であれ、すべて人間が作った「虚構」や「物語」に支えられたものです。

これらは自然なものではありません。『サピエンス全史』を読んだ結果、人間社会の根本にある「虚構」に敏感になり、「虚構」と「現実」を区別できるようになれば嬉しいです。

世の中に出回っている「真理」は、単なる「虚構」に過ぎないものが少なくありません。お金も国家も宗教も人権もすべて「虚構」です。

そうした「虚構」を虚構と認識してはじめて、「現実」をありのままに見ることができるようになるのです。

『サピエンス全史』の著者に聞く「人類滅亡」の現実的シナリオ(ユヴァル・ノア・ハラリ) | 現代ビジネス | 講談社(5/5)

虚構は我々個人の生活を、内部からも外部からも容易に破壊してしまう力を持っている。老後の生活が不安でお金を貯めこむのも、宗教的行動に突き動かされて人を傷つけるような誤った行動をとるのも、ブラックな企業風土の組織を作り沢山の人の生活に不幸をもたらすのも、たかがスポーツの為に組織間で対立するのも、全部全部。

その背景に、それぞれの人が持つ、現実制作(リアル・メイキング)能力が大きく関わっている。さて、読んでみましょう!


タイトルの写真は、国宝仁科神明宮の夕暮れです。もう1000年近く、今の場所に建立され、定期的に立て替えられ、その後立替が出来なくなってから300年。1000年間も、「残さなくては」と人が想い続けてきた虚構の結果の物質的現実、人が居なくなれば朽ちて土に還るのに、ずっと人は霊の存在を共有して来たのだろうか、すごいなぁ。


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