【登記】登記の誤りと修正方法

法務局職員は一人あたり1日に50件近くの申請書を審査し、登記簿に記載します。あまり理解されませんが、人間ですから当然に間違いはあるものです。また、困ったことに、登記簿というのは「記載内容の削除」というものが仕組み上不可能です、結果として、修正の結果が残ってしまう、見た目「汚い」登記簿ができてしまうこともあります。
今回は、そんな登記の誤りと、その修正方法について見ていきます。

・「過誤」と「記載誤り」
公務員の用いる言葉で、過誤(かご)というものがあります。読んで字のごとく、「過ちを見過ごした」という意味です。委任状等の添付書類が抜けているのに登記を完了させてしまった、申請人は「菊地」なのに「菊池」と登記簿に記載してしまった。そのような公務員の過ち全般を包括して「過誤」といいます。
基本的に添付書類漏れのミスは申請人側も法務局側も誰も気づきません。ですから第三者機関の指摘(例えば、運送会社の合併の登記を運輸局の許可なしに行ってしまった場合に、後に運輸局から指摘が入る場合)が入ったことなどが契機となります。このような場合には、統括登記官(ある程度偉い役職)の下っ端が申請人のお宅訪問する等して、一生懸命に事後修正を行います(過誤のもみ消しではありませんので念の為)。
第三者機関が登記情報を見ることはあまりありませんので、一般的な過誤は申請人の意図に反した登記簿への記載を指すことがほとんどです。これを、「記載誤り」といいます。

・記載誤りの修正方法4つ(3つ)
記載誤りについては、4段階の修正方法があります。

1.申請人側から修正(更正)の登記をすること
法務局が行うべき登記簿への記載は、登記申請書のとおりに行うことが原則です。例えば申請人(代理人を含む)が誤った登記申請をし、さらに、法務局がその内容をそのまま記載した場合、『法務局側から修正をすることはありません』。というより、法務局職員は間違いをしたという自覚を持ちません、「申請が間違っていたのなら申請で直せ、どうして俺らが直してやらねばならんのだ」というのが法務局のルールです。
この様な登記は「更正登記」と言います。「更正登記」という4文字があればこれに該当します。たまに見かけます。

2.簡易更正の記載を行うこと
申請が正しく、法務局が間違えた場合で、一定の基準に該当したものは登記部内の決裁で修正の記載を行うことができます。これを簡易更正と言います。法務局のミスなので、この記載があったら法務局にクレームを頂いても甘んじて受け入れる覚悟です。「登記官の過誤により・・・」という記載が目印です。

3.更正の記載を行うこと
申請が正しく、法務局が間違えた場合で、一定の基準に該当しないものは、法務局長の決裁を得て更正の記載を行うことができます。これはもう、大目玉です。首席登記官(登記のトップ)が局長に呼び出される事案です。「○○法務局長の許可」という文言が入ります。

4.表示登記の特則
表示登記(表題部の登記)については、特別なルールがあります。というのも、表示の登記は法律上、登記官が職権で行うことが可能とされているものですから、間違いが見つかっても、法務局は平気な顔をして「錯誤」という言葉を使って修正できます。「錯誤」は申請により申請人側から使うことも多い言葉ですので、法務局のミスなのか、申請人側に落ち度があったのかは分からなくなります。極端な話「表示の登記は間違いをし放題」ということになります。法務局の新規採用者は表示の係に行くことが多いです。これは、間違いにある程度寛容な係だからです。

・大都会の法務局の違い
東京等の法務局ともなると、一人1日50件の処理をしてもまるで追いつかないそうです。公にはできませんが、サービス残業で交代で休日出勤をしている部署もあると聞きます。この様な法務局では「ミス上等、更正上等」で大量の登記申請を処理しているようです。大変ですね。

・商業法人登記の裏技「非表示設定」
登記の仕組み上、記載を削除することは不可能です。我々法務局職員は「消しゴム」を使えないのです。しかし、商業法人登記では特別なルールがあり、「非表示の設定」を行うことができます。誤った記載が見つかった場合、その下に正しい記載をして、誤った記載は非表示にすることで、登記簿に消しゴムのようなことを実現することができます。不動産登記の職員は、不動産の登記簿にも非表示設定機能が追加されることを心待ちにしています。

・更正事案が発生したときの吊し上げ
その時の偉い人の考えにもよるのですが、一般的に更正事案が発生した場合は担当した登記官が朝礼で吊し上げを喰らいます。「昨日更正事案を発生させてしまいました、原因は○○で、再発防止策で○○を行いたいと思います。」という発表をさせられます。さらに担当した係員はこの登記官に謝罪を行う風景も一般的です。「私の調査が未熟なせいで申し訳ありませんでした!」という感じですね。
このような事情があるのも、法務局は全体として公正な処理を目標に掲げており、統計をとって過誤率を内部で公表しているためです。私個人的な意見としては、もちろん法務局職員は過誤を無くすよう努力すべきだけれども、非表示設定の拡充等を行えば、申請人からのクレームはほとんど無くなると思います。どうして不動産登記では非表示設定が無いんでしょうか。システム開発の怠慢だと思っています。

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