【同性婚】の争点を見る

 国が訴えられると法務局の訟務(しょうむ)部の職員が法廷に立つルールです。そんな法務局職員としては、「まーたマスコミは悪の手先扱いだよ」「マスコミに捕まったらうるさいんだろうな」とか思ったりするわけですが、こちらも人間ですから、「こんな負け戦、やる気でないなぁ」とか、「なんでこんな勝ち確定の訴訟に付き合わなきゃならんのだ」とか思ったりもします。それでも不合理に負けるわけにはいかんのです。賠償金は税金ですからね。

・同性婚訴訟について
同性婚訴訟は結構複雑で、詳細な説明は困難を極めます。そもそも、同性婚の仕組みを法律で決めることは国会だけができることであり、行政に属する我々法務局職員の親玉の本省(法務省)職員であっても決められませんし、裁判所も直接法律の細部の決定に関与することはできません。ただ違憲判決をして、国会に改正を促すことはできるという構図です。
本件は同性婚訴訟の札幌判決を踏まえた控訴審を取り上げ、争点を観察してみたいと思います。

・筆者の立場
マスコミにも右翼左翼あるように、筆者にも個人的意見があります。そして、それは記事の内容に反映されることが避けられません。ですので最初に筆者の個人的立場を述べます。
私は同性婚反対派です。私はいわゆるセクシャルマイノリティーではありませんので、従来の婚姻制度で婚姻の権利を保護される立場です。そして、セクシャルマイノリティーの方々には理解を示すつもりではあるのですけれども、同性婚という革新的な制度を導入することで、従来から保持されてきた相続権や社会的慣習が破壊されてしまうことを危惧します。
記事内ではこの点を踏まえて読んでいただければ幸いです。なお、当たり前ですが本記事は筆者個人の感想であって、国を代表するものではありません。

・札幌地裁判決
判決文はマリッジフォーオールジャパン様のサイトから飛べます。

判決:原告敗訴(国勝訴)
原告の裁判上の主張は、慰謝料100万円の支払いです。請求の原因は、同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法に反するもので、これを是正する立法措置をとらないこと(立法不作為)について国家賠償法上の損害賠償を求めるものです。
「国勝訴」というのは意外かもしれませんが、これは損害賠償請求部分について認められなかったため、裁判上は国の勝訴と言えます。

・論点
1民法等の異性婚のみを認める規定は憲法24条違反か?
2民法等の異性婚のみを認める規定は憲法13条違反か?
3民法等の異性婚のみを認める規定は憲法14条違反か?
4民法等の異性婚のみを認める規定は国家賠償法違反か?

・裁判所の検討1
「1民法等の異性婚のみを認める規定は憲法24条違反か?」及び「2民法等の異性婚のみを認める規定は憲法13条違反か?」について
①婚姻の自由は憲法24条にあるとおり十分尊重に値する
②しかし、戦後初期の時点では同性婚は精神疾患の一種とみなされ許されないものとされていた。また、憲法24条の「両性」という文言について考えても、憲法24条は同性婚について定めるものではないと解釈するのが適当である
③結婚について個別に定めた24条が上のように言っているのに、包括的な規定である憲法13条で同性婚の権利が保証されていると読み取るのは困難である
④したがって、憲法24条及び憲法13条に反しない。

・裁判所の検討2
「3民法等の異性婚のみを認める規定は憲法14条違反か?」について
①立法府は婚姻について広範な裁量権が認められる、そして婚姻は身分関係だけでなく、諸規定で定められた法律効果があるため、「保護される異性婚」と「保護されない同性婚」の区別が合理的か検討すべきである
②異性愛者と同性愛者を区別する差異は認められない
③平成4年ころまで、同性愛は精神疾患として扱われた
④登録パートナーシップ制度を導入する自治体も増えてきた、諸外国も同様
⑤同性婚に否定的な意見や価値観を持つ国民が少なからずいることは斟酌すべき
⑥しかし、同性愛は精神疾患ではなく、多数の異性愛者の理解がなければ同性愛者に婚姻の法的効果を得られないとするのは、異性愛者の保護にあまりにも欠けると言わざるをえない
⑦以上から、同性愛者に対する区別的取り扱いは合理的根拠を欠く差別的取り扱いである、したがって憲法14条に違反する。

・裁判所の検討3
「4民法等の異性婚のみを認める規定は国家賠償法違反か?」について
①同性婚制度の広がりを見せたのは平成27年頃からである
②最近の調査でも同性婚に反対する層は存在する
③合憲性の司法判断もされていない
④以上から、国会は憲法14条違反を直ちに認識することは容易でなく、違法の評価を受けるものではない。

・札幌高裁控訴審
国の控訴答弁書はこちらから見れます(マリッジフォーオールジャパン様)。

・憲法14条に違反するものではない(被告主張)の要旨
①「差別的取り扱いかどうかは、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくか否かで決するべき」旨の最高裁判例があるので、憲法24条が同性婚を想定していないことを考えると、むしろ憲法は同性婚に対する差別的取り扱いを許容していると言える
②地裁判決は同性婚と異性婚の法的効果の違いを深く取り上げているが、原告が言っているのは同性婚を認めないことは憲法14条違反だと言っているだけで、法的効果の違いを問題にしていない
③民法や戸籍法の規定は憲法が定義する異性婚について保護を与えるパッケージを提供したのに過ぎないのに、その一部を取り出して同性愛者にも適用しないことを問題視する考え方は根本的におかしい
④婚姻制度は社会に深い影響を与えるため、国民的な議論を経て民主的なプロセスで判断されるべき、憲法でも想定していないような同性婚については、立法府により裁量を与えて丁寧な議論がされるべき
⑤法律は一人の男性と一人の女性との間に婚姻を認めるものであり、特定の性的趣向を強制するものではない、そうすると、同性婚で法律の保護を得られないとするのは婚姻の間接的効果にすぎない
⑥以上から、同性婚を認めない規定が憲法14条違反であるかという問題と、同性婚を認める立法政策をとるのが相当か否かという問題は次元を異にする。

こんな議論がされているということです。

・感想
元々「同性婚の検討は国会でされるべき」という感想は同性婚肯定派でも否定派でも持っていると思います。裁判ってのは本来、法律を作るためにするものではありませんからね。でも、国会への働きかけが不十分だから舞台を司法に移して戦っているというのが賛成派の動きなんだと思います。きっと賠償金なんて原告の誰も欲していないでしょう。
地裁判決では、裁判官は憲法13条24条的には問題なく、憲法14条(差別的取り扱いの禁止)にだけ違反するとしました。これに対し国は、「形式的には平等である。同性婚を選択しても異性婚を選択しても良いのだから」と、先日の夫婦別姓訴訟で判示された「形式的には平等である。夫の氏を使っても妻の氏を使っても良いのだから」という論理を類推適用していますね。

さて、結果はどうなるのでしょうか?

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