全ての女性に伝えたいこと【無戸籍】
はじめに、全ての女性に伝えたいことを書いておきます。
小難しい話が嫌な人は、序文だけ読んでいただければ結構です。
なお、無戸籍問題とは、簡単に言えば「出生届を出さない(出せない)問題」と同じです。
・女性は離婚するまで他の男とエッチするな!
・それでもエッチするなら、避妊を徹底しろ!
・あと、覚悟をもってエッチしろ!
・無戸籍で悩んだら、まずは住民票だけでも作れ!
以上です。お疲れさまでした。
以下は小難しい話です。
男女差別?女性蔑視?そういう次元の問題では無いんです。
離婚していない女性に子供が生まれた場合、無戸籍の問題が発生することがあります。私はそれが嫌なんです。
順を追って説明しましょう。
世間の裁判のニュースでは「虐げられる弱者原告vs悪の被告『国』」という構図を作りたいのか、無戸籍で困っている原告と、原告寄りの意見を持つ専門家のみを取材して、「無戸籍を解消しない国は何をやっているのか!」とお怒りです。
しかし、直近では2020年2月上旬に、最高裁が嫡出否認の権利を夫だけとする規定を合憲としました。これは国寄りの判決で、ニュースだけを見ている人には「国は間違っているのに、どうして裁判所は違憲判決を出さないのだろう、よく分かんないなぁ。」という意見を持ちがちです。ニュースは原告寄りの立場ばかりを取材するため、結局どういう問題なのか、結局何をすればいいのかという問題を見落としています。これでは事の本質が見えません。無戸籍問題については、国側の立場を(納得しなくとも良いので)理解すれば、何が問題なのか、その対応はどうすべきかが分かります。
私達法務局職員は、無戸籍について3つの立場があります。それぞれの立場を見ているからこそ、私は無戸籍問題に「立体的」な意見を持っているつもりです。
① まず、戸籍担当の目線です。
この立場では「とにかく無戸籍の解消、とにかく無戸籍の把握」が重要視されます。無戸籍についての機密情報を扱い、無戸籍解消に向けた指導や声掛けを行います。この立場は「中立」と言えます。
② 次に人権擁護担当の目線です。
この立場では、国民に寄り添った態度で人権問題を解決しよう、「一人で悩まないで相談してね。」という対応で、無戸籍者を発生させる人にも様々な援助の方法を考えています。この立場は「国民寄り」と言えます。
③ 最後に訟務担当の目線です。
この立場では、訴えられた国の代理人として、損害賠償という形で税金が流出することをなるべく避けようとする立場で、無戸籍に対する国の責任を全面否定しています。この立場が「国寄り」です。
私の個人的意見は①と③の中間くらいでしょうか。私は人権意識が足りないですね。
こうして、無戸籍問題について皆さんの味方になったり敵になったりする法務局ですが、基本的に害になるようなことは言いませんので、無戸籍問題で困ったときは積極的に相談してほしいところです。
さて、無戸籍問題がなぜ発生するかを簡単に述べましょう。
この文章を作成するに当たり、「日本の無戸籍者 井戸まさえ著 岩波新書」を読みました。この本では無戸籍者の類型を
①民法772条問題のケース②ネグレクトのケース③戸籍制度に反対のケース④認知症等のケース⑤戸籍滅失のケース⑥皇室系の6つのケースにまとめています。「ネグレクトは良くない。」「法律は守るべきだ。」「天皇に戸籍はない(皇統譜がある)。」などと言うのは常識だと思うので、ここでは①民法772条問題のケースについて述べます。
そもそも当たり前の話ですが、法律で「母の特定」というのは問題になりません。人間は母から生まれるのですから、「母が誰か迷う」ということはありえないのです。生まれた子に対し、生んだ女性を「母」と呼ぶだけの話です。間違えようがありません。(本当は、代理出産だとか、赤ちゃんポストだとか、病院で取り違えられた子の問題がありますが、まぁ基本的には母は間違えませんからね。)
で、問題になるのが「父の特定」の話です。これが「民法772条問題」です。
DNA鑑定が普及する以前は、「父が誰か」というのを特定する方法は存在しませんでした。だから法律は「母の婚約者を『父』とする」という分かりやすい原則を設けました。DNA鑑定が普及した現在では不要な規定と思う人もいるでしょう。しかし、少なくとも私は、子は生まれたら全員DNA鑑定を強制されるような社会にはなってほしくありません。私の妻の子であれば「そりゃあ(普通は)俺の子だよ。検査なんかいらんよ。費用も負担したくないよ。」と言います。
さて、ここで、こうした「父の推定」が問題になるケースが一部発生します。それが、離婚調停・裁判中の女性Aが、夫Cではなく、他の男性Bとの間に子を出産するケースです。離婚調停・裁判中は、当然ですが戸籍上の記載ではACは夫婦です(まだ確定してませんからね。)。ここで妊娠した子は、真実の父はBですが、先程の法律の原則ではCが父と推定されます。
法律は、こうした「父の推定間違い」に対し、「親子関係不存在確認」「嫡出否認」という方法を用意しました。この手続が面倒だという指摘もあるのですが、この手続を経れば、出生した子の父はBだと訂正することができます。訂正しなければ、子の父はCのままです。
さて、このように生まれてきた子にとって、「父」が「真実の父」で無い場合、法的にはどういう問題が発生するか?という話です。ここで、報道されない真実を言いますが、父が違ったところで、法的には子に不利益はほとんど発生しません(心情を無視すればむしろメリットです。)。
というのも、「父」には子の養育をする義務があります、この点、子にとってはラッキーですよね。また、「父」の遺産をゲットするチャンスもあります。遺産が負債のみであれば相続放棄をすればいいのです。
一方で、真実の父に扶養されない、真実の父の遺産を相続できないというデメリットがありますが、これは、真実の父が認知行為(認知はできません、もう「父」がいるので。)に積極的であれば、養子縁組や特別養子縁組の仕組みによって回復できる問題です。
結局、戸籍上の父欄が真実と異なるのは心情的に大変気持ち悪いものと思いますが、法的には「父欄に誰か人が居る=ラッキー」なのです。ここが報道されない真実です。
2020年2月の判決では、この点が重視されました。というのも、「父」がいるのは子にとってラッキーなことで、父欄を空欄にするなんて行為(嫡出否認)のメリットは子にも母にも無い、よって嫡出否認を子や母ができないとする現行の規定に問題はない、と判示したわけです。
法律や裁判所はこのように考えるわけですが、当事者である母親はそう思いません。何より「父が真実の父と一致しない」ことに嫌悪感を抱くようです。結果として、父欄に母の夫の名を記載したくないため、出生届自体を出さないという暴挙に及ぶのです。
心情は理解できないことも無いのですが、子の出生届を出さないのは「母として失格」です。今は戸籍が無くとも住民票を作るという動きがあるため、小学校入学や社会保険加入等の問題は生じませんが、戸籍が無ければパスポートが作れません。一昔前は小学校入学の通知が届かないといった深刻な問題がありました。
私が言いたいのは、世の無戸籍者は「社会がうんたらかんたら」「政府がうんたらかんたら」と言いますが、無戸籍を発生させたのは出生届を出さなかった母親が悪いのです。全ての無戸籍者の母親が出生届を出せば、無戸籍問題はすぐにでも解決します。
「父が真実の父と違う」?それに何の問題があるんですか?戸籍が作られない方がよっぽど問題じゃないでしょうか?国のせいにするのは責任転嫁です。
私だって母親から生まれました。世のお母さん方に厳しいことを言いたくはありませんが、出生届を出さないのは子の不利益です。子の不利益を母親の感情で発生させているのであれば、それは「親の責任を果たしていない」として母親が負うべき問題です。子の利益と母親の心情を天秤に掛けた場合、子の利益が優先されるべきではないか、そう言っているわけです。
さて、最初の結論に戻ります。
無戸籍問題が発生しないよう、すなわち、父の推定に間違いが発生しないようにするには、まず「紛らわしい期間に子を作らない」という解決策があります。エッチするなよ!やるんなら避妊は絶対だぞ!ということです。これは離婚調停・裁判中の女性はもちろん、その女性のパートナーたる男性にも求められることです。
そして、万が一子ができてしまった場合には、覚悟を決めてほしいということです。真実とは異なった出生届を出さなければいけません。父欄を直すには調停や裁判が必要ですし、それは法律上の父と協力してしなければ上手くいきません。
それでも、どうしても無戸籍の子が出来てしまったとしたら、行政機関の援助を得ることが重要です。戸籍が無くても、事情を話せば住民票は作れます。住民票があればそこまで重大な問題は起きません。私としては、出生届を出して無戸籍状態を脱してからゆっくりと親子関係不存在なり嫡出否認の手続きをとってほしいと思いますが、せめて住民票だけでも作りましょう。
今回は無戸籍問題に触れました。
この問題は法的にも、そして心情的にも難しいものがあります。私の意見に反論する方もいるでしょうが、「無戸籍者はゼロになるべき」「子の人権は守らなければならない」という意見では一致団結できるかと思います。
読んでいただけたらコメントいただけると幸いです。