見出し画像

ノーベル賞を取りはぐった高校の先輩、玉尾皓平先生

(はじめに:高校の同級生への新年のご挨拶)


 A凸くん、本日(2012年1月2日)久しぶりにお電話いただきありがとうございました。あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。
 

1.  一昨年2010年のノーベル賞について


 さて、一昨年2010年の秋に、北大の鈴木章先生とアメリカ在住の根岸英一先生が、クロスカップリング反応の発見でノーベル化学賞を取られた時、私はすぐにどうして観一出身(=香川県立観音寺第一高等学校出身)の玉尾皓平先生も、一緒にノーベル賞が授与されなかったのか不思議でたまりませんでした。そのことを、観一のなかよし倶楽部の皆さんに知ってもらいたいと投稿しようしようと思いながら、忙しさに紛れてとうとう今になってしまいました。
 

2. 玉尾先生は、我々の高校の先輩


 玉尾先生は、香川県観音寺市古川町のご出身で、お父さんは玉尾医院のお医者さんでした。玉尾皓平先生は一ノ谷小卒、三豊中学卒、観音寺第一高校昭和36年(1961)卒、京都大学卒、京大化研教授、京大停年退職後、理化学研究所基幹研究所(埼玉県和光市)の所長をされて現在に至っています。
 私は40年ほど前から、玉尾先生が京大で先生をされていたのを、私の父親や母親が同じ一ノ谷村(一ノ谷小学校区)の出身だったので、よく聞かされていました。また玉尾先生の実家の隣が私の親父の方の親戚だったので、玉尾先生のおうちもよく知っていました。玉尾先生は、私の中学の先輩でもあり、高校の先輩でもあります。

3. 熊田―玉尾反応と私の研究の関係


 そして、私が化学の研究者となって、30年ほど前に、新しい構造の液晶化合物の合成開発で苦しんでいるとき、玉尾先生が発見されたクロスカップリング反応の方法を知り、それを利用した反応経路を用いたところ、ようやくこの新物質の合成に成功しました[1]。このクロスカップリング反応を熊田-玉尾反応(1972)といいます。クロスカップリング反応は、鈴木先生や根岸先生よりも先に、玉尾先生が先駆的な研究をされていたのは業界では周知の事実です。したがって、2010年のノーベル化学賞がクロスカップリング反応で授与されるのなら、玉尾先生も授与されるべきじゃないのかと、私はすぐ思ったわけです。ただ、鈴木カップリン反応の方が安定なホウ素化合物を使う点で、空気中などで不安定なグリニャール試薬を使う熊田-玉尾反応より優れているといえます。そのため鈴木カップリング反応は汎用性が高いです。
 

4. しかしながらノーベル賞は決して公平ではないと思います。


 私は個人的には、玉尾皓平先生がノーベル賞と取りはぐったのは、欧米とのコネクションが足りなかったからかなと思っています。鈴木先生も根岸先生も、同じアメリカのブラウン先生のところに留学し、ノーベル賞受賞者のブラウン先生が今度は君たちにノーベル賞を取らせると言っていたそうです。彼らには強いアメリカンコネクションがあったということだと思います。鈴木先生も根岸先生も、立派なお仕事をされているので、受賞そのものを批判しているわけではありませんので、誤解なく。
 

(おわりに)


 ただ、多くの日本の皆さんや同窓生の皆さんに、私達と同じ高校の先輩の玉尾先生も、大変立派なノーベル賞級の仕事をされているということを、ぜひ知ってもらいたいと思っています。
 末筆乍ら、今年(2012年)が皆様にとって、健康で幸多き年となることを祈念しております。
 
文献
[1] See Scheme 1 in the following paper: Novel Discotic Liquid Crystals obtained from Substituted Bis(dithiolene)nickel Complexes,K.Ohta, A.Takagi, H.Muroki, I.Yamamoto, K.Matsuzaki, T.Inabe, and Y.Maruyama,J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1986, 883-884.
 
 
*なお、冒頭の玉尾皓平先生のお写真は、下記のURLのWikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E5%B0%BE%E7%9A%93%E5%B9%B3)から引用させて頂きました。最終更新 2023年4月12日 (水) 09:26
 
平成24年(2012年)1月2日 随筆
令和5年 (2023年)9月19日 加筆

いいなと思ったら応援しよう!