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千曲川の守り神、安徳天皇

はじめに

私は上田市内の全部の神社仏閣を約4年かけて回りました。その数は約200です。大小様々でしたが、特に神社の中で、まつられている御祭神に非常に興味深い事実に気がつきました。信州上田市では、半分以上が諏訪の神様がまつられています。一方、一箇所だけ、他に類を見ない御祭神が、千曲川の堤防、諏訪形(地名)に存在します。それは、千曲川で漁業を営む人々に崇敬されている、千曲川の守り神、安徳天皇です。

1.つけば

千曲川は、日本一の大河で漁業が盛んです。川ではあるのですが、漁業協同組合もあり、6月から10月には「つけば」という名前の川魚料理の小屋が河川敷の各所に開かれ、ハヤやアユの料理が出されます。つけ場は千曲川の風物詩の一つです。

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写真1 つけば-1 JR上田駅「温泉口」からほど近い鯉西さんのつけば小屋

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写真2 つけば-2 鯉西さんのつけば小屋:ここで川魚料理が食べられる。

6月にはアユ漁が解禁となり、入漁料などの一定の料金を払えば千曲川でアユ釣りが楽しめます。時期が来ると、たくさんの釣り好きの人たちが胸まであるゴム長靴をはいて、川の中に日がな一日入り、アユ釣りをしているのが遠望できます。
また、山国信州ですが、漁業だけで生計を立てている人たちもおられます。上田市では、鯉西さん、臼田漁業さんなどが有名です。鯉西さんは、JR上田駅の「お城口」の前で、アユの甘露煮などを売る常設店も経営しておられます。また、JR上田駅の「温泉口」を出てすぐの千曲川河川敷で、「つけば」も開いています。また、臼田漁業さんは、小牧橋付近の河川敷内の池と常田池で、鯉の養殖を行っており、年末年始には鯉を食べる習慣が東信地区にはあり、年末にはアルバイトの大学生を雇って鯉の出荷に大わらわです。

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写真3 鯉西さん本店 JR上田駅の「お城口」にほど近い、アユの甘露煮などを売る常設店

2.海なし県に、漁業協同組合

このように、山国信州からは想像しがたいですが、漁業も盛んなので、漁業協同組合もあるというわけなのです。

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写真―4 上小漁業協同組合-1 JR上田駅にほど近い場所にあります。

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写真―5 上小漁業協同組合-2

3.安徳天皇を祭った神社

私は、千曲川の堤防の上の道路の脇にこじんまりした神社がまつられているのを、散歩の途中に見つけました。その神社は、漁業協同組合の方々の崇敬が厚く、年に1回皆ここに集まっておまつりをするとの説明書きがそこにありました。その神社は、鳥居には水天宮と書かれていますが、ここにある説明文によると、ここの御祭神は、なんと壇ノ浦で二位尼とともに海中に身を投じた安徳天皇でした。平家物語によると、わずか6歳の安徳天皇を抱き、祖母に当たる二位尼は、幼い安徳天皇に「波の下にも治めるべき国はございます。」といって、海中に沈んだといいます。平家物語を全編読んだばかりの私は、この話をすぐに思い出し大変感動しました。千曲川の水中は、安徳天皇が治める国なのだと思ったのでした。
最近、もう一度ここを訪ねてみました。10年ほど前にはこの神社の横に、確かにこの詳しい説明書きがありましたが、残念なことに、現在はないようです。

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写真―6 ご祭神が安徳天皇の水天宮、千曲川の守り神:上田市諏訪形参上神社(荒神宮)の横の堤防道路を川上に約100メートルくらい行った所にあります。

4.四国阿波の秘境祖谷の阿佐家に伝わる安徳天皇の伝説

ところで話は少し変わりますが、最近NHK-BSの「新日本風土記」を見ていたら、徳島県の祖谷(いや)地方のことを放映していました。阿波の祖谷(いや)といえば、秘境中の秘境で、今は祖谷のかずら橋が有名です。祖谷は、源平の合戦で敗れた平家の落人(おちゅうど)が隠れ住んだところで、明治になるまで平家であることを知られないため墓を作らなかったとか、墓を作っても文字を刻みいれないとか、隣の讃岐(香川県)の出身の私は、子供のころから両親に聞かされていました。その祖谷で、阿佐(あさ)家という祖谷で最も大きな家に住んでいる当主が、今回NHKに語っていました。「私は、壇ノ浦で戦死したことになっている平盛国の子孫です。盛国と安徳天皇は、ここ祖谷に落ちのび、ここで生涯を終えました。我が家の墓は『ふせばか』といって、字が刻んでありません。平家の子孫であることを知られないためです。また、家の仏壇のこの像は安徳天皇です。安徳天皇は壇ノ浦では亡くなっていません。先祖の盛国がここ祖谷までお連れしました。」そして、NHKのテレビカメラは、仏壇の中で鎮座する安徳天皇の古い小さな像を映していました。
 千曲川の守り神、安徳天皇は今も、祖谷の阿佐家に鎮座されているのです。千曲川の漁業協同組合の方々も、祖谷にお参りに行かねばならないなあと私は一人、NHKのテレビに向かってつぶやいたのでした。

*:冒頭の写真は、信州上田市のJR上田駅にほど近い「上小漁業協同組合」の全景です。


信州上田之住人和親
2012年7月9日随筆
2021年7月23日加筆

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