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被告人を解放せよ

ライブや演劇で偶然隣の席になった人とお喋りをするのは楽しい。
演者のどこが好きかとか、いつごろから、何きっかけでファンになったかとか、他にどんな人が好きとか、とにかく話が弾む。袖振り合うも他生の縁。

そりゃそうさ、だって、同じ人を応援しているんだもの。
そりゃそうさ、だって、俺達オタクだもの。

私がウエノコウジさんや、武藤昭平さんのライブへ行くようになって早くも1年が経ってしまいました。
1年前のあの日、地下にあるライブハウスの暗がりでウエノさんと立ち話をした経験は今でも鮮明に思い出せるんですよ。

終演後のざわめきとBGMで騒がしい中、背の低い私に合わせて少し腰をかがめ、こちらに耳を傾けてくれた姿。
「ウエノさんのお若い時のバンドのライブを見て興味を持った」と話す私を見て、大笑いするウエノさん。
大きな手を自分の口もとにあて「お若い時て!あの頃、俺20代よ!?」「今、俺53よぉ。年取ったなぁとか思わん?」などと、ミッシェル時代と比べて今の俺はどうだ?と、私の耳もとで問いただした様子をはっきり覚えている。
ウエノさん!安心してください、変わらないですよ!(とにかく明るい安村)

そして初めて見た武藤さんの、物静かな佇まいからの、強烈なギターと歌声が放つ衝撃といったらなかった。
上下とも黒のスーツに、黒いシャツ、そして黒の中折れ帽。その夜のにおいがする風貌は、まるで「黒の組織」(名探偵コナン)のメンバー。
多分あの時、武藤さんの上着のポケットに「APTX4869」(※)入ってたな…。
※APTX4869=漫画「名探偵コナン」の第1話で、主人公の青年が「黒の組織」のメンバーに飲ませられ、体が子供になってしまった薬物

その、夜のにおいがする格好で静かに椅子に座る姿と、もの柔らかな顔。そこから放たれる力強い歌声と、フラメンコの風が吹くパーカッシブなギター!
袈裟けさでも似合いそうな穏やかな顔をした人の、どこにこんな情熱的なものが……?と、予期せぬ裏切りに面食らってしまった。
えぇ。あの穏やかそうな顔は、前フリとして完璧でしたよ!武藤さん!

「武藤昭平withウエノコウジ」のライブへ行くと、隣に座った人とお喋りをする機会も多くて開演前の時間も楽しいんですよね。
私が最近ファンになったと名乗ると、みんな驚いて、新入りの私に界隈のアレコレを教えてくれる。武藤さんや、ウエノさんのファンのお姉様&お兄様たち、みんな優しくてありがたい。
これはひとえに、武藤さんとウエノさんの人柄だと思う。ファンはアーティストに似ると言うし。

ただ、唯一の問題は、私が好奇心旺盛すぎて色々な事をたずねるせいか、ファンとしては新入りのくせに「耳年増」になってしまったという事。

いや、あの、誤解しないで頂きたいのですが、決して色っぽい話がどうこう~という事ではなく。ファン歴が浅い割に、ウエノさん達のキャリアや、ミュージシャン同士の関係について、聞きかじりの知識が増えてしまったというだけの事ですので。ご心配なく!

ほら、会社に入ると、社内政治とか、職場・部署間の力関係とか、会社の裏ルールとか、そういう事に情報通のおじさん社員や、面倒見の良い先輩が、聞いてもいないのに色々と話してくれる事ってあるじゃないですか。
会社内での処世術、あるいは生きる知恵ってやつを教えてくれる世話好きな人っていますよね。あぁいう感じですよ。
新入りが来た時の、先輩としてのその辺の感覚、諸兄姉の皆さま、お分かりいただけますでしょうか?

ファンの末席にいる私に対して、いつも色々と優しく教えてくれる先輩方、どうもありがとうございます。あなたがあの日、こっそり教えてくれたWikipediaに掲載されていない面白エピソードのおかげで、私はますますウエノさんや武藤さんの事が好きになっています。

親くらい年の離れたおじさん達の事を「好き」というのも、何か誤解を生みそうな日本語の使い方な気がするけれど。
うーん、こういう感情は何と表現したらいいのかな。「憧れ」と「多数の共感」が入り混じった感覚、とでも申しましょうか。

例えばウエノさん。
ファンの皆様ならお分かりになると思うのですが、ウエノさんはお喋りが上手で大変な「人たらし」。とにかく人に好かれ、見た人をとりこにしてしまう方。
私も明るくお喋りな性格だと人に言われる方だけれども、ウエノさんには敵わない。あのトーク力、明るい雰囲気、誰が来ても受け入れる器の大きさは生来のものでしょうか。
終演後、ファンの人達に囲まれている姿を見ると、若くしてスポットライトが当たり、超人気者となり、黄色い声援を浴び続けてきた人って、天性の愛され体質なんだろうなと感心します。あれは芸の世界に生きる人、芸術家肌のウエノさんだからこそ持ちうるものなのでしょうか。

私はウエノさんのお喋りな所が自分と似ている気がして、都合よく共感しているのですけれど、それと同時に、自由に生き生きと振る舞う姿に強く憧れてもいます。
私がウエノさんへ向ける「好き」は、こういう感情を内包した「好き」であり、決して、のぼせ上った「好き」ではないのですよ。

武藤さんも同じ。
武藤さんって、絵を描いたり、MCで急に哲学的な事を話す時があるじゃないですか。たぶん、集中力が高くてちょっと内向的な性格なんだと思うんですよね。
あ、これは私の勝手な見立てですけれど。
もし「武藤さんはそうじゃない!」「いや、多分そう!」というご意見がありましたら、ぜひご連絡ください。先輩方からの貴重なご意見、ありがたく頂戴します。

私も10代の頃は絵や書道をやっていた時期があったので、深く考えて表現するのはけっこう好き。しかも、得意なスポーツは水泳、乗馬…といった風に個人競技ばかり。勉強も趣味も、好きなものを突き詰めるような風変わりな10代だったので、内向的な性格の人の事が分からないわけじゃない。
というか、私自身も内向的な面を持っている。

だからたまに、武藤さんのそぶり、話していることが心から理解できる瞬間があるんですよ。

ウエノさんが何か話題をふった時、思いがけず武藤さんの反応が薄く、ウエノさんが「ガクッ」とする時がありますよね?
あれは多分、武藤さんとしては考えてちゃんと反応しているのだけど、ウエノさんが求めるリアクションを返せていないだけなんじゃないかな。

恐らく武藤さんって、1対1の会話は得意なんだけど、単純にリアクションを求められたり、聞き役になるだけだと、反応が薄くなるタイプだと思う。
私自身もそういう所があるから、そんな武藤さんの反応を見ると「あー分かる。オチとかリアクション求められると困りますよね」なんて、心の底から共感してしまう。

武藤さんに聞いたわけじゃないから、根拠のない私の想像だけど。

その一方で、武藤さんは何でもこなして器用な面もお持ちだ。
歌+ギターorドラム。歌と演奏が同時進行なのがすごいなって、いつ見ても感心してしまう。私はマルチタスクの能力が無いので、ステージにいる武藤さんの姿を見ると、「プロってすごいな」と心から尊敬します。
共感と憧れが入り混じった気持ち。それは「好き」より「したう」の方が適切な日本語かもしれません。
板の上にいる武藤さん見ると、つい何となく、こういう事を考えたりしてしまうんですよね。

……いや、目の前のライブに集中しなさいよ。

あ!あなた今、私の事を面倒な奴だと思いました?思いましたよね⁉
そうなんです!私、自分の感情を細分化しようとする面倒な奴なんです!認めます。異議ナシ!

裁判長!全部認めるので、早く私を武藤・ウエノの魅力から解放してくださーい!

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金太郎
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