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【劇場版からかい上手の高木さん】深いプールの深すぎる理由

はじめに

2022年6月10日に公開された『劇場版からかい上手の高木さん』。人生で一度きりの中3の夏休み。キラキラとした日々と、ほんの少しの寂しさ。泡のように儚くも歩みを止めず進んでゆく少年少女の成長を描いた名作です。

本稿で取り上げるのはプールでの「息止め勝負」の場面。スクリーン全体が美しいブルーに染まり、劇場を包み込むような音響の演出によって、つい観客である私たちも息を止めてしまいそうになる、本作で最も没入感のあるシーンです。

問題提起

『劇場版からかい上手の高木さん』は、その公開前から「見守りたい初恋展」をはじめとしたイベントやTwitterでのカウントダウン、事前のティザームービーの公開等によってファンの間で盛り上がりを見せていました。その中でも話題となったのは「高木さんの学校のプール深くね?」というツッコミ。これに関しては公開が始まったあとも、「隣の観客がプール深くない?とか話してて冷めた」とか、「これは演出なんだからそういうものとして受け止めてほしい」といったツイートも見られました。

確かに中学生がプールの底に立って頭まですっぽり水に入りなお余りあるほどのプールなんて、客観的に見てもふつうに「深い」。ではなぜあれほど不自然に深いプールを演出として描いたのでしょうか


水の演出効果

暗黙知

このシーンを考えるうえでまず意識していただきたいのが、「暗黙知」という概念です。暗黙知とは、「誰かに教わったわけではなく、ふつう意識もしないが、経験的にもっている知識」のことです。

海の底にはもう一つの世界がある

誰もが知っている水に関する暗黙知。それは「海の底にはもう一つの世界がある」ということです。どういうこと?と思った方もいると思いますが、思い返してみてください。

『浦島太郎』にはじまり、現代の作品であれば『崖の上野ポニョ』など。海外に目を向ければ『リトルマーメイド』、『アクアマン』など。日本の作品に限らず世界中のお話において、海の底には普通とは違う世界があって、そこには不思議な力を持った生物がいる。この「海の底にはもう一つの世界がある」という知識は、ある意味フィクションにおける万国共通の常識であります。

深いプールが意味すること

この深い深いプールを描いた意図、それは西片と高木さん二人だけの世界を表現するためだったんですね。あの深いプールの底は、クラスのみんなが授業をやっているあのプールとはもはや別の世界。西片の視界にいるのは高木さんだけ、そして高木さんは西片の全視線を独り占めできる。

「このまま誰も来なきゃいいのにね」と、静かな教室で2人きりのひと時を一瞬にして奪われてしまった(アニメ1期1話)ことのある高木さんには願ってもないチャンス。ここぞとばかりに「好き」の口の形で西片に告白します。

外界から切り離されたその世界には神秘的な魅力がある。高木さんが顔を赤らめながらも西片に面と向かって「好き」と伝えられたのは、プールの底の世界の不思議なパワーによるものだったんじゃないかなーとか考えられるわけです。

そして、完全に告白されたと思った西片は動揺と同時に呼吸することを思い出します。西片がプールから顔を出した瞬間、水の音響も消え一気に現実に引き戻されたということがうまく表現されています。






+++++ここからは少しセンシティブな内容に踏み込みます+++++


水中の表現にはもう一つ解釈がある

『劇場版からかい上手の高木さん』を映画館で見た方は、この息止め勝負のシーンを観たときに何となく不思議な、もしくは神秘的な感覚に陥ったと思います。「水中」の描写というのは元来そういう感覚に刺激するものです。それはどこからきているかというと、私たちのお母さんの胎内で過ごした記憶です。

プールに飛び込んだ高木さんは膝を抱えて水中を潜っていきますが、この丸くなったバランスのとり方がまさに赤ちゃんの胎内環境を暗示しています。おなかの中の赤ん坊は自分の生命のすべてを母親にゆだねる存在です。水着をつけているとはいえ、自身のすべてをさらけ出し、ありのままを受け入れてもらう。さすがの高木さんもここまでの体験は初めてです。

この「ありのままの自分自身をさらけ出す」というのが比喩的に描写されているのが、「おだんごに結んでいた髪がほどける」描写です。

さあ、もう私を縛るものは何もないよ。
全部君のものだよ。
(そこまでは言ってないか…)

体を丸めて水中にとどまる無垢な少女を目の前にして、照れずにいられる男子なんているわけがない。それでニコっと微笑む高木さんには母親のような包容力まで感じてしまうので西片はすでに大ダメージを負ってるはずなんですよね。


+++++ここまで少し大人な内容に踏み込んでました+++++



終わりに

高木さんの「うぅ~き」がかわいいシーンなのでおすすめです。


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