【映画感想】醒拳

ジャッキー・チェンが撮影中にトンズラこいた映画です。
英語タイトルは「Fearless Hyena II」となっているのですが、「I」がある訳ではありせん。
「Fearless Hyena」は「クレイジーモンキー笑拳」という邦題で公開されました。ジャッキー・チェンの初監督作品でありますが、つながってません。
こう書くと、「えっ、自分の映画の続編を降りたの?」と思ってしまいがちなんですが、「II」と打ったのには訳があって、ジャッキーがトンズラしたから、「笑拳」で使わなかったシーンとかカンフーシーンを再利用して、つじつまが合うように追加撮影とかして「完成」させたのですね。このゴタゴタが起こった理由などについてはwikipediaとかに載ってるので、興味ある人は勝手に調べてください。
「醒拳は笑拳が混ざってるインチキ映画」という話は公開当時中学生だったぼくのところにも伝わって来ていて、じゃあ観なくていいやという一本だったのですが、偶然劇場で観てしまったんです。アニメ版「北斗の拳」との二本立てでした。確かに、笑拳で観た事のある演武やアクションシーンが、「そこは映画で大事なところじゃないのかな?」というクライマックスはじめ、あちこちに出てきました。「北斗の拳」のついでに観たので特に腹も立たず、「ストーリー理解できないし、あんまり面白くないな」というボンヤリとした感想しか残っていません。
huluで配信されている映画をあいうえお順に鑑賞するというルールで観ているぼくは、たまたま今回が「せ」だったので、折角だから見直してみることにしました。
これがね、結構感動したんですよ!!
とは言ってもストーリーなどではありません。残されたジャッキー素材だけで、どうしたら一本の映画が作れるか、という製作者たちの見えない苦労が映像のあちこちにみることができたからです。
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「いいかみんな聞いてくれ。今撮ってる『醒拳』だが、残念なことにジャッキーがトンズラした。だがしかし、これを一本の映画として完成させろという上からのお達しが出ている。我々もプロだ、頑張ろう」
「はい!(一同)」
「まず、既にジャッキーを撮影しているシーンがある。しかしどう編集しても10分20分ほどにしかならないだろう。もちろんこれだけでは到底映画にならん。そこで『笑拳』のボツテイクはじめ、ジャッキーがこれまでに出た作品で、本作で使えまわせそうなものを追加する事にした。しかしこれでも足りない」
「いっそのこと、当初あった設定やストーリーを改変してしまうのはどうでしょうか?」
「それはいい考えだな。うーん……じゃあこの作品は生き別れの義兄弟がいるって事にして、ジャッキーパート半分、そいつパート半分で話を作ろう。……いいぞ、これで足りない尺がある程度補えるじゃないか!」
「ナイスアイデァ!(一同)」
「生き別れになったのは二人が幼い頃、ということにしよう! そしたら二人とも出さなくていい箇所が増えて、子役で足りる! よし、これで序盤は行けるぞ! それから二人ともそれぞれに師匠がいて、それを敵が追っているという事にしよう! 師匠が敵と闘うシーンを撮ればさらに時間を稼げる! よし、どうだ!」
「半分くらい埋まりました」
「おお! これひょっとしたらイケるんじゃないのか!!」
「一番の見せ場であるクライマックスのカンフーシーンですが、ジャッキーは1秒たりとも撮ってません」
「う! ウウーッ! うぐぐーっ! アオオーッ! ……こうなったら仕方ない。『笑拳』の"本編"フィルムを使いまわそう。話をつなげるために敵役は『笑拳』の敵役を再び起用して同じ格好させよう。『えっこの人前作で死んだのでは?』って思われるかもしれんが仕方ない。……どうだ、いけるか!?」
「『笑拳』のラストは1対1のバトルでしたが、今回主人公が2人いるのでカットが全くつながりません」
「ちっくしょー!! だったらジャッキーに背格好が似てるやつを連れて来い。常にそいつは後ろ姿を撮影すればいい。そしたら2人いるってカット撮れるよな! ボスを2人にして、ジャッキーはその片方を1対1で倒すって事にしたら自然さが増すよな! どうだ!」
「観客には完全にバレると思いますが、話がつながったかどうかということであれば、何とかつながった気もします!」
「よし! これであと残ってるところはどこだ!!」
「生き別れの義兄弟の話を結構描いたんで、ジャッキー側のストーリーが全く足りません! あと流石に演技も必要な主要シーンでずっと後姿しか映らないってのは無理がありすぎます!」
「ギャー!! ……こうなったら仕方ない、『敵に見つからないために変装して過ごす日々を送っていた』という設定を追加しよう。ジャッキーと同じ背格好のやつを同じ髪型にして、さらにそこへ帽子かぶせて、それから鼻赤く塗って、ついでに口髭つけさせろ! んでもってジャッキーがやりそうな過剰な身振り手振りで演技させろ! どうだ!」
「それでも到底ジャッキー・チェンには見えません!」
「死にたい! 何故だ! 変装という意味では完璧じゃないか! 本人に見えないというのが変装の醍醐味であり意味だろうが! なあおい! 俺は間違った事を言ってるか! おい! おい!!」
「間違ってません! 既に話自体がズタズタなので、もう観客もこのくらいの事は気にしないと思います!」
「そうか! よしじゃあこれで完成だ! やった! 俺たちはやったんだ! 不可能を可能にし、ほとんどゼロの状態から一本の映画を作り上げたんだぁ~!!」
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そんなやりとりがあったらなと妄想しながら呑む酒がもう美味い美味い。
真面目に見ると退屈極まりない凡作ですが、見方を変えるとこれほど面白い作品にはそうそうお目に書かれないのではと思いました。二度と観ないと思いますが。
おわり

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