給与の決め方

企業は、人の給料をどうやって決めているのか。年功序列、能力給、成果型など色々給与についての用語がある。

なんとなく人は、その給与がそれなりの合理的な計算式に基づいて決められていると思っていないだろうか。少なくとも30歳くらいまでは私はそう考えていた。特に、郵政事業庁で簡保のセールスをやっていた頃は、俸給という細かい細かい仕組みがあった。

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昔、ある大手チェーン系飲食店(カフェ)の事業計画書を見たことがある。
「社員1名(店長) アルバイト店員5~6名」と書かれており、その下に「店長給与年収400万 妻1人子供2人の世帯構成を想定」と書かれていた。

これは該当店舗の売上、利益や経費と無関係にアプリオリ(前提として)に設定された金額なのだった。

確かに考えてみれば、利益に応じて給与が直接変動するとなれば、任天堂やトヨタ、商社などは年収5000万や8000万の社員がゴロゴロ出てくるだろう。
他方で赤字が発生すればマイナス年収(実際できるのは解雇)としなければならない。

ダイナミックな業界にいる企業は頻繁に赤字も出すので、その度に首を切ることはできない。半導体メーカーなんて業績乱高下が当たり前だ。メルカリは最近までずっと赤字だったのだ。「生産性」なんて言葉に意味はあまりない。

従って、企業の利益と従業員の年収を、対応させることはできない。

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では社員(店長)の年収400万というのは、どういう理屈に基づいているのか。年収を決める一つの要素として、業界の平均賃金を大きく下回るような金額は設定できない点が挙げられる。そうすると、従業員は同業他企業に転職してしまうだろう。

また店舗の売上/利益に対応しないというのは、社員に対してはチェーンの他店への異動を命じることができるからでもある。企業としては、グループ全体で利益を上げればいいのであって、その店舗が赤字でも構わないし、閉めて他店舗に異動してもらってもいい。
だから、店長の給与は、店舗の売上/利益とは直結せずとも問題ない。

被雇用者の年収上限については、成果給を徹底すると税制の壁がある点も指摘したい。年収900万程度を超えると所得税が23%から33%に跳ねあがり、税金で納める比率が高くなる。(もしくは1800万の壁)
これは雇用者も被雇用者も喜ばないので、給与以外の福利厚生だとかストックオプションなどで成果に報いるようになる。

また、ゴーイングコンサーン(going concern)という思想もある。これは「企業が将来にわたって無期限に事業を継続することを前提とする考え方」であり、「継続企業の前提」ともいう。
ここから導き出されるのは、労働力の再生産(要するに子育て)に必要な賃金を払わない企業は、永続性の条件を満たさない、ということだ。
この観点からは、子育てに十分な支援を出さない企業は、既存の社会資源にフリーライドしていると非難されうる。

ゆえに妻1人子2人の世帯設計を前提に社員の給与を決定するのは、費用から給与を決定する、ある意味コストプッシュ型の決め方といえる。これは、それなりに合理性のある計算方法ではある。

ところが、女性の正社員やパートタイムのシングルマザー、正規雇用を目指さない層、社員だが子供を作る気のない夫婦、といった非定型の家族にとっては必ずしも合理的ではない。

従来型の報酬体系は、年収上限を税制によって歪められており、年収下限をコスト(再生産費用)によって保護されているということが分かる。

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ところで、うちの父親は零細な建設会社の社長だったが、「率直に言っていくら欲しいの?」と中途採用の面接時に訊いたこともあるようだ。しっかり働いてくれそうなら、その金額で雇ったようだ。その時私は、「雑!雑だなっ!さすが土建屋のどんぶり勘定!」と思ったものだ。

だが、年を取って色々思案していくと、いくら必要なのかは本人が一番知っているはずだし、上に述べた通り、どうせ給与と企業利益は対応しないのだ。だったら、やる気があるならその金額をあげる、というのも一案だろう。

年功序列とか勤務年数だとか社内の公平性なんか、考え始めるとキリがないしどうせ正解もない。まして公務員みたいに俸給〇号棒だとか、複雑な計算も零細では作りようがない。

だったら「欲しい給与は与えるから、先輩からのジェラシーなんかは自分の意欲と成果で跳ね返してね」というメッセージを給与に込めた、と解釈もできるわけだ。

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そう考えると、自分の年収が自分の価値や貢献に対応しているなどと考えるのは馬鹿げている。実際は、会社の繁栄と自分の給与に対応関係はあまりない。逆にいえば、自分がどれほど頑張っても潰れる会社は潰れるし、それが自分の価値を毀損するものでもない。

だから、自分がいくら貰うのが正当かなどという問いは、私個人は正直あまり意味がないと思っている。どの道、どこで働こうとも委ねねばならない部分があり、また、一見公平に見えなくとも与えられたものは感謝して受け取るのが良いと思う。

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毛針
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