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ジジイ抹殺計画
※クライミングの初歩的な話は「ゴールドフィンガー5.10a」(無料エリア)を参照ください。
ゴールドフィンガーを何とか堕として、次なる課題をどれにするか考えていると、同期くんから急に「烏帽子岩行きませんか?」と誘いがあった。
同期くんとは、オレと同じ時に当会のクライミング教室を受講し、そのまま同時期に入会した仲間だ。
教室の時から少し仲良くなり、色々相談したりもした仲なのだが、彼のクライミングに賭ける情熱はオレの比ではなく、入会してからは平日も週5でクライミングジムに通ってると会の噂になる程で、その実力はもう会でもトップクラスだ。
実は外岩をリードで登ったのはオレが先だったのだが、その後の彼の伸び方は凄かった。オレが力任せで誤魔化しているのに対し、しっかりと「クライミング」してるので、ムーブがとても綺麗なのだ。本当に上手い人は何でも簡単そうに見えるように動く。バイクでも何でもそうだ。彼のムーブはもうそんな領域で、努力不足で平日に時間が作れないオレは彼について行くのは無理だなと諦めていた。
会に入ってからはあまりのレベルの違いに少し疎遠になっていた、そんな彼から突然の誘い。どういう風の吹き回しか。
聞けば烏帽子の「おじいちゃんのドタドタ落ち」と言う5.11aの課題をレッドポイントしたいのだとか。通称「おじいちゃん」とか「ジジイ」とか言われてる課題だ。
あれ?イレブン登ったことなかったの?と聞くと、実はまだだとのこと。
意外だった。
しかもこの課題はオレが1年ぐらい前にお試しで登らせてもらい、何度か落ちながらもトップアウトし「あ、オレこれ好きかも」と思った奴だが、ロープを張る人もあまりやる人もいないので例会ではほとんど登ったことがない。
ただ、比較的パワーで何とかなる感触を得ていたので、技術のないオレとしてはこれで「イレブンクライマー」の称号が入るならありがたい。
もちろん、やろう、と返事し、当日。
まずはトップロープでトライした。
一度落ちるが、まあやはり好みだし、問題も比較的簡単に解決もできそうだ。
最終的に同期くんはこの日にレッドポイントし、「イレブンクライマー」になった。
素直に「おめでとう」だった。彼の努力が報われた瞬間を見ることができ嬉しさしかなかった。
むしろあれだけ水を開けられていたと思っていた同期くんがまだそこにいる。これは追わねばならんだろう、と思った。
はい、単純なオレのスイッチ、オン(笑)
会長に「何とか年内に堕としたい。すみませんが手伝ってください」とお願いする。
しかしホントのところは2週間後には同期くんと雪彦山でマルチピッチ(簡単にいうと実際の山で、クライミングを繰り返して上がって行くこと)を予定していたこともあり、やはり肩は並べておかないと、「連れて行ってもらう」ことになってしまう。それは避けたい。
なので「年内」とは言ったものの、私的には「来週」と言う気持ちだった。
「ジジイ抹殺計画」の始まりだ。
翌週、会長にお願いし、例会ではなく個別レッスンでジジイを登り倒した。
前述の理由で今週決めてやろう、と鼻息を荒くしていたが、会長には「うーん、多分、もう一回ぐらいはやらないとあかんかな…」となだめられながら開始(笑)
まずはトップロープで2回。
特に会長や同期くんとは違う上部のムーブは、オレの体躯を活かした形でほぼ固まった。下部も核心部はこれでいけるだろうという形は見つかったので、リードでトライする。ところが…
事もあろうに核心部に行くまでの下のムーブで落ちる。
この課題は下部の細かいホールドやスタンスが割とシビアなので、ムーブを間違うと体勢がおかしくなるので詰みやすい。そして指しか掛からないホールドしかないので、迷って時間をかけるとパンプすると言う蟻地獄のような課題だ。
ちょっと待って、もう一度最初から、と繰り返す。
ところがコレもダメ。どないやねんと言いながら3度目のトライ。コレでダメならとりあえずトップアウトだけして終わろう、と言うことにした。
ところがやはり一度右足と左足を入れ替えるポイントで足を滑らせるなどというあり得ないミスでトライは失敗。もう会長、爆笑。
結局もう指が死んでしまい、ホールドできなくなってきたので今日のトライはここまでにして退散し、昼間から飲みにいく(笑)もう会長の予言通りだ(笑)でも次はいけるんちゃう?だいぶ安定してきたし、とのお言葉を頂き、少し安堵する。ただ、翌週は同期くんと泊まりで2日間雪彦山。となれば次練習できるのは2週間後だ。長いな…と不安に感じていた。
ところが。意外な事態が起こる。
ヤマ屋にとって最大の敵である「雨」。
コレが奏功する。
雪彦山初日は雨なので日曜だけにしようと同期くんと決めた。
そうすれば土曜は雨だが、空く。
そして天気予報は雨が降るのは午前10時だ。
…朝イチだけトライできるんじゃねえか?
しかも同期くんは空いてるのは確実。
同期くんに問う。
「やっぱジジイ、マスター(ヌンチャクを掛けながら登る)でトライしたくない?」
同期くんはマスターにもちゃんとこだわりがあって、ただのレッドポイントで行けても彼は「行けた」とはあまり言わない。そう言う男だ。なのでそこをくすぐってみた(笑)要は「オレのためにロープ張ってくれない?」って話なんだが(笑)
ただ、彼はオレほど岩場が近くないので、朝5時半に家まで迎えに行く、帰りも送る、なんなら昼メシも奢るから、と半ば脅迫のように頼み込んだ。
同期くんは「熱意に負けました」と渋々同意。と同時に「会長も気にしてたのでトライすること言っといたらどうですか?」とのこと。(当然、ここまで手伝ってもらってたのでそうするつもりだったが、どうもコレが今となっては同期くんの作戦だった気がしてならない。)
会長に連絡すると「マジか!オレも9時から搬出訓練(会長は救助隊なので)があるから8時ぐらいまでしかおられへんけど、応援行くわ!」と。それは嬉しい。オレもちゃんと見届けてもらいたい。すると同期くんは「ほな僕行かんでも会長ロープ張ってくれますよね…」とフェードアウト(笑)まあその通りだが…お前、絶対それ狙ってただろ…(爆)
と、言うわけで当日朝6時に岩場集合。
![](https://assets.st-note.com/img/1732091511-4EQlt96K07goZXcM2Wvkx3CR.jpg?width=1200)
時間が1時間半しかないのでウォーミングアップはトップロープでやろう、となった。
会長を朝イチから5.11aをリードで登らせる鬼畜っぷり(笑)流石に朝イチはキツいか、会長も一度、なんて事ないところで足を滑らせてフォールしたが、何とかロープは張ってくれた。
そしてオレのトップロープ。
散々やったのでもう下部もだいぶ安定した。そして上部に移るところで、デッドとまでは言わないが、飛びつくようにホールドを取りに行くところがある。
ココがひとつの核心でもあるのだが、何とココで上のホールドを掴みきれずにテンション。何と情けない。だが上部のムーブはほぼ完璧で、滑るポイントもしっかりグリップを効かせ、指先だけで体を寄せるムーブも完璧。これはもう揺るがない。無事トップアウトし、ロワーダウン。
しばし休憩してレストする。
トライは多くても2回だ。気合い入れて行く。
1本目のパンプも少し治ってきたところでチョークアップし、
「じゃあ、行きます」
と、トライ開始。最初の緩斜面で靴の裏についた落ち葉で滑ると言うハプニングからスタートになったが、ひとつひとつホールドを取り、細かいスタンスに足を載せていく。右向きレイバック気味に左足を右のフェースに載せるところさえ間違わなければ問題はない。順調だ。
2ピン目を掛けて少しレスト。右足をピンの横に上げて右手で角を取ったら懸垂気味に足を上げて行き、3ピン目をクリップして核心のプチデッドポイントだ。2本目など無い。1本で終わらせる。
少し反動をつけて「フンッ!」とホールドを取る。成功だ。あまり気合いの声を出さないタイプのオレだがこの時はつい声が出た(笑)
そして上部に移る。あとは半分確認作業だ。しっかりと、慎重に手順通りこなしていく。滑るところも、指で体を寄せるところもフルパワーで移動、成功だ。
そして左のレッジに上がり、レッドポイント。
![](https://assets.st-note.com/img/1732091594-kIitQJynuZ7NAMOEGc1mS5v4.jpg?width=1200)
朝早くから付き合ってくれた会長とグータッチを交わし、雨が降る前に早々に下山。
かくして無事、「ジジイ抹殺」に成功し、雪彦山に行く前に同期くんと一瞬だが肩を並べることができた。
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バイク乗りは常に「個」であって「衆」であってはならない。行動を共にすることはあっても群れてはならない。コレはヤマ屋にも言えるとオレは思っている。
研鑽を続け、世界を広げる。
そこには同じレベルのパートナーが必要になる。
そんな時は「個」のレベルを上げて行く。それがオレのやり方。
またひとつ、ステージが上がり、残る人だけが残る領域に少しだけ入ってきたかな、と感じた、そんなジジイ抹殺劇。
次回の予定「早く人間になりたい」サピエンス5.10c
-了-