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Breakthrough
何かが上達する時、地道に一歩一歩積み上げ、いつの間にかこんなとこまで…って事は思いの外、少ない。
必ずどこかで壁に当たり、その壁を突き抜ける瞬間っていうのが必要になる。俗に言う、ブレークスルーって奴。
オレはバイクに乗ることにおいて「速くなりたい」ずっとそう思って来た。
だけどそれはサーキットを走って世界一になりたいなんて高尚なものではなく、根底にあるのは誰しもが持つ、もっと俗っぽい、「カッコよく走りたい」と言う願望だ。
乗り手がヘタクソなのは「ダサい」
人馬一体の美しさがあるバイクという乗り物において、マシンは同じでも、100の乗り手がいれば100の乗り方があり、その姿は全員違う。その唯一無二の自身のライディングはやはり「カッコよく」ありたい。そのためにはやはり速く、上手くマシンを操る事が必要だと思っている。極端な話、SBKを法定速度でチンタラ走らせるぐらいならカブで全開の方がよっぽどマシ、そう言う考え。とにかく実力もないのに余裕かましてスカしてるのが大嫌いなのだ。
そんなオレが要所要所で現れる、「速さの壁」を突き抜けたと思えた出来事が3回あった。
1回目のブレークスルーは第二神明で出会ったGSX1100Sカタナだ。
コレについてはどこかで語った気もするので割愛しよう。
今回は2回目のブレークスルーになったGSX-R600との出会いについて語ろうと思う。
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2006年頃だったか、ツナギを新調して以来本格的に始めた膝擦りも、数年もすればだいぶマンネリ化してくる。ホームコースでは「全コーナー膝擦り」と掲げた目標も早々に完遂してしまった結果「これ以上どうやったら速く走れるの?」と、目標が全く見えなかった時期があった。
漫然とホームコースで膝を擦り、うん、今日も楽しかった、と帰る。こんなこと、2、3回も続けばハッキリ言って飽きてくる。だが、何をすれば見えてくるのか分からず、やはりサーキットを走るしかないのかな、などとウンザリしながらその日も早朝からホームコースへ向かった。
1本軽めに走り、2本3本とタイヤが温まって来たところで今日も目一杯寝かし込んでいく。ほれ、もうこのぐらいお茶の子さいさいよ、これ以上どうしろって言うんだよ?と思いながら走ってると、ミラーに1台の黒いマシン。
速い。
ケツにビッタリ付いてきた。
こりゃ確実にオレより速いな、とUターンした所で道を譲る。オレが譲るまでもなく、当然、と言わんばかりにそのマシンはオレの前を走り出した。
YZF-R6。
ほぉー、R1じゃないのか…と、そのケツについてみる。さて、どんな走りを見せてくれるのか?
一発目の右コーナー、前のR6は一気にフルバンクで向きを変える。
速い。
オレも負けじと右膝を路面に叩き付けながらついて行く。
次の左。こっちもガリガリに膝擦ってるがジリジリ離れて行く。どうなってんだ?
右、左、と繰り返す度に差は広がる。パワーでごまかせとアクセルを少しいつもより多めに開けるがまるで近づかない。
どのコーナーも膝擦ってんのにコレでどうやって追い付けと?と頭の中は「?」だらけだ。ツッコミが甘いのか?(←当時はそんなレベルでしか考えられなかった(笑))いやいや、言うほど前のR6もハードブレーキングはしてない。なのに何故?もっとバンクさせなきゃだめか?!などと考えてる間にR6は1本であっさり見えなくなった。その後も何本か続けたがすれ違うだけで背中が見える事はなかった。
黒いツナギで黒いマシン。そしてブーツが確か当時はまだ珍しいブーツアウトのツナギだったか、とにかく普通のブーツではなかったのが印象的だった。
「膝擦ってるだけじゃ峠は速く走れんぜ」
そう言われた気がした。
ボロカスにやられて落胆はしたが、課題が見え、むしろ嬉しかった。翌週からは以前のマンネリ感は無く、高いモチベーションでホームコースに向かった。僅かながらに残る、前を行く「あの人」のゴーストを追いかけ、こんな感じだったな、、と、イメージしながら走行を重ねていくと、わざわざ膝を擦らないコーナーも増えたが、明らかにスピードが乗り、直線らしい直線がどんどん減っていった。
バス停の手前の登り右コーナーからごく短い直線の後、もう一度右、切り返して左、そこから少しキツめの左、と曲がるところなんて、夢見心地の空中浮遊のような感じで、右から次の右に行く時に、短い直線ではバンクさせたまま一瞬、膝を擦るのをやめて、再度カリッと擦ったところで左に切り返す、あの感覚が大好きだった。
そして自分でもある程度「あ、オレ速くなったな」と思える程度のレベルになった半年後あたり、いつも通りの時間にホームコースに行くと…
…いた。
黒いマシンに黒いツナギ。マシンは…?あれ?GSX-R600に変わったか?でもあのブーツは間違いない、あの人だ。
タイミングを合わせ、ケツについてみた。
自分のこの半年の走りの集大成だ。
どの程度通用するのか見てみたい。
今度は登りからスタート、最初はパワーに任せてついて行く。ひとつ目の長いヘアピンで2人ともガーっと膝を擦りっぱなしで抜け、左、右と小気味よく、無駄な膝は擦らずに切り返しながら、ラインを選びながらアクセルを極力緩めずに抜けて行く。大丈夫、離れない。これは…イケる!
…とテンションは爆上がりになるが、直線を挟んだ後、「あの人」は更にペースは上げる。
マジかよー!と思いながらもついて行く。いくつかのコーナーを越えて、バス停のコーナーに差し掛かる。オレの得意なところだ、おりゃああぁぁ!とコーナーに飛び込むと差は少し縮まり、思わずアクセルを戻しかけた。思わずニヤッと笑みがこぼれる。
ココでやっと確信した。
「オレ、速くなった。」
数本走ったがチギられることなく、GSX-Rはマシンを止める。
ホントならココで会話をするのは野暮ってもんだが、どうしても確かめたかったので、オレもマシンを止め、つい話しかけた。
「前、R6乗ってましたよね?」
「ああ、乗り換えたんよ」
ビンゴ。別人でした、なんて話ならまた「あの人」を探さないといけないところだった(笑)
それ以上は喋るつもりは無かったのだが、雑談になり、600だと1速で走ってることや、撮ってた動画を見せてもらったりして、それはそれで興味深かったが、私的に一番ヨシ、と思ったのは「1回思い切り滑ってさ。これ以上は無理やと思って」って話。
あー、そこまで追い詰められたなら、やっとオレはこの人と同じレベルまで来れた、って言えるなと確信した。
不思議なんだよね。オレが何か迷ってる時って、誰かが必ずその答えを代弁してくれる。ちゃんと、言葉でそれを確信させてくれる人が現れる。
この時もそれだった。
それ以来この人とは、何度同じところに行っても会ったことはない。
けどこう言うのもまたいいんだよね。オレの人生の中でこのことだけを伝えるために現れた人って感じでさ。
そんなオレの2回目のブレークスルー。
え?3回目のブレークスルー?
さぁどうだろ?また誰かが「そうだよ」って言ってくれた時に「やっぱりあの時のはそうだったんだな」ってなるんじゃないかな?
-了-
※この物語はフィクションです。公道で競争なんて馬鹿な事はしません。