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スピードの向こう側 〜半生の証明編

前回、ウェットの走行会を経て、何となく自分の立ち位置が見えてきた。どうやら自分は他人から罵倒されるほど遅くはないようだ。
そうは言ってもちゃんとしたタイムを見てみないことには客観的な評価はできない。なのでドライ路面での走行会に臨める日を待ち望んでいた。

2014年4月13日。

前回と同じ、初心者向けの走行会。天候は晴れ。

今度はバイク屋さんのメンバーも何人か参加しており、ピット内を見渡すと皆、アブレージョンの出たスーパーコルサを履いたCBRやら年季の入ったツナギを着たモンスターやら、とにかく速そうだ。こちとらロッソコルサなんてそこそこグリップのタイヤでもアブレージョンなんて出ないレベルだが、まあ、レースでもないのだから周りを気にしてもしょうがない。とにかく、今回は過去の自分の正否を問う挑戦。初心者の壁と言われる2分。これだけは何としても切りたい。何なら一気に1分55秒、あわよくば50秒だって切りたいところ。

伝説の男には「初走行のタイムなんて何の参考にもなりませんよ。気にしなくていいですよ」と言われていたが、ここにだけはこだわった。
各所で「ちょっと速いからって調子に乗るな」「サーキットは別物」「公道でいくら練習したところで無駄」と言われてきたオレのささやかなる反抗。
サーキット未体験の「今、この時」のオレの速さが本物であれば、散々ぶつけられた数々の妄言を一蹴できる。タイムというエビデンスを突きつけて。そんな思いでこの走行会に臨んだ。

いざ走り出してみると、初心者向けの走行会らしいと言うのか、前回と異なり色んなレベルのライダーがひしめきあっている。明らかに遅い人、そこそこ速い人、めっちゃ速い人・・・
ただ、自分は上位の方にいることは何となくわかる。とにかく、邪魔なマシンやトリッキーな動きをするマシンが多く、クリアラップを作るだけでも大変だった。
さっき見たアブレージョンバリバリのCBRなんかも、何だ、この程度かよ、ってぐらい遅く、コース上で会ったが早々にパス。年季の入ったツナギのモンスターも、初心者かよ、ってぐらい浅いバンク角で走っていた。(後から実はツナギは貰い物だとわかった(笑))

何とか走るパイロンを交わしながら走り終えて、出たベストラップは1分56秒。

狙い通り2分切りは成功した。
ただ、55秒は切れなかった。しっかりクリアラップが取れれば、タイヤがスパコルだったら?など、無数のたらればが頭をよぎり、素直に喜べずにいたが、結果は結果。これがオレの今の実力なんだと自分に言い聞かせていると、そこに店主がやってきて、他の参加者に配慮してかボソッと耳元で囁いた。

「キレネンコさん、速いっす」

この言葉が何より嬉しかった。見慣れた人は外から見ててもその人が何秒で走るか大体わかるらしいが、その後の会話でも「一人だけパワーライド(走行会の名前)じゃない感じでしたね」と見学と写真撮影に来ていた上級者と笑っていた。

まあ、まだ自分自身「よっしゃーー!どや!見たか!」とはならなかったが、事実を並べて行くと、実際、今までなら「速そう」と思ってた人たちを片っ端から置き去りにできたこと、タイム的には過去に自分が速いと認めてた方の持ちタイムが55秒だったこと、実際に走ってる人たち(持ちタイムは皆43秒ぐらい)にはこちらから聞かなくとも「速い」と言ってもらえるレベルだったこと等を踏まえると、オレが過去半生を掛けて積み上げて来たものは間違っていなかった、という証明ぐらいにはなったのだろう。

結局、過去の行いが正しかったかどうかの証明ができるのは、過去の結果である現在の己のみなのだ。

さて、じゃあ次はどうするか?
頭では満足したが、こんなレベルで心の底から満足できるはずもない。
出てきた言い訳を全部無くしたらどうなるのか、本当にタイムが縮まるのか、やらなきゃならんだろう。「こうだったらこうだった」なんて仮定の話なんて、何の価値もない。未来の自分に何も残せない。そんなのオレに妄言を吐いてマウントを取ってきた奴らと何ら変わらんじゃないか。そんな人間にはなりたくない。

答えは決まっている。

できるところまではやる。そして事実を受け容れる。だ。
今度は「自分はどこまでできるのか」への挑戦だ。

さーて、どこまで行こうかね…

〜日本最速クラスへの挑戦編へ

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