ダブルチタンマグの完璧な設計思想 -Complete Design
アウトドア用のクッカー(コッヘル)やマグカップ。
材質はアルミやステンレス、チタンなどがあるが、今回は一般的なステンレスとチタンについて比較しつつ、考察してみる。
チタン製クッカーってのは登山家さんたちが少しでも軽いものを(ステンレスの比重は7.93に対しチタンは4.5ぐらい)ということでコスト度外視で作られたものだったが、いかんせん、調理器具としてはあまり優れたものではなかった。
リリース当初から「カレーが焦げた」などの噂はよく聞いていたが、その原因を理論的に解説すると、こういうことだ。
まず、熱伝導度という熱の伝わりやすさを示す数値がある。
これがステンレスは鉄の1/3ぐらいなのは前の記事で述べたところ。これがチタンになると更に悪くなり、1/5ぐらいになる。つまりチタンは熱の伝達が遅い。(当時、チタンは伝熱がいいから・・・という解説をよく目にしたが、科学的根拠なく人の話を鵜呑みにしたバカによる全くの嘘。我々世代にはこの話をまだ信じている人もいるかもしれない)
図にしてみると下図のように、伝達距離の短い①板厚方向への熱伝達 はともかく、②の長手方向への熱伝達 が悪い。
どういうことかと言うと、熱源の真上は熱くなるが、横方向への熱が伝わらない。ので熱源に接したところだけに熱が集中する。このため、熱源があるところだけが局所的に強火に当たっているようなもので焦げ付きやすくなる、というのがチタンクッカーが焦げ付きやすい原因と考えてる。つまり、軽量を目的とする以外にクッカーにチタン製を選ぶ理由はない(爆)。
ところがこれがマグカップになると話が違う。
冬場のキャンプの経験がある人はわかると思うが、温かい飲み物がすぐ冷める。これを軽減するのがダブルチタンマグというものだ。
今度は飲み物が熱源でそれをいかにして外に熱を逃さないか、が肝になる。下にダブルチタンマグの模式図を描いてみた。
ここで大事なのは気相部、つまり空気の熱伝導度というのは金属とは桁が3つぐらい違う。つまり金属1mmを熱が伝わる時間で空気の中を熱が進もうと思うと1/1000mmしか進めないと思えばいい。
つまり飲み物に接している内側の金属に熱が伝わっても、この内部の右側の拡大図のように気相部の存在のおかげでほぼ外側への熱の伝達は阻止されるようなものだ。これにより、長時間の保温を可能にする。伝わらない熱は長手方向にじわじわと熱が伝達していくことになるのだが、ここでチタンの意味が出てくる。クッカーのところで述べたように、鉄やステンレスと異なり、長手方向への熱伝達が圧倒的に悪い。これにより、なんと「飲み口が熱くならない」というおまけ付きなのだ。
よって実質、熱の逃げ道は飲み物の表面からだけという優れもの。これがダブルチタンマグの素晴らしいところなのである。ちなみに、メーカーによってはそれさえも抑える為に蓋が別売りしているものもある。
これ以上を求めるのであれば、このダブルウォールの中を真空にして空気の伝熱さえも排除したものが「魔法瓶」というわけ。ただし、魔法瓶になると確かに伝熱的には有利なのだが、真空に耐えるだけの強度が必要になり、大きく、重くなる。更にこだわる人からすれば、ごちゃごちゃした形状で飲み口の口当たりが悪くなる。私的にはそこまで拘っているつもりはないが、ここの形状が綺麗なマグは使っていて気持ちがいい。
登山や自転車ほどそのサイズや重さに大きな影響は受けないが、バイクに積める荷物は限られる。その中でサイズを変えず、重量も大きくならず、極限までその性能を磨き上げたダブルチタンマグというのは素晴らしい逸品だと私的に思っている。