取締役の会社に対する責任について
天文学的な額の賠償義務を命じる判決が出されました。
ご参考:
東電旧経営陣4人、原発事故で13兆円賠償命令 最高額か(日本経済新聞)
東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償命令 判決のポイントは(NHK)
第一審判決ですし、判決文も一般には公表されていないようなのでその当否は今後の議論に委ねますが、この判決の持つインパクトについて考えてみたいと思います。
1. 責任限定契約の対象にならないのか
まず疑問に思うのが、取締役の会社に対する責任といっても責任限定契約を締結しておけば、賠償義務も一定の合理的な範囲になったのではないか?という点です。会社法は、以下のような定めを置いています。
条文から明らかなとおり、業務執行取締役は責任限定契約を締結することができません。そして、東京電力株式会社の有価証券報告書によると、今回の判決で「責任あり」と判断された4名の取締役は、いずれも業務執行取締役であったようです。したがいまして、そもそも株式会社(東京電力株式会社)と責任限定契約を締結することができなかったものと思われます。
業務執行取締役については、↓の説明をご参照ください。
「業務執行取締役」って何のこと?
2. D&O保険の対象にならないのか
D&O保険(Directors and Officers insurance/ 会社役員賠償責任保険)とは、会社役員としての職務の遂行に関連して会社や株主を含む第三者に対して負った損害賠償債務について、一定の条件の下で保険給付を受けられる保険です。元々、会社の経営には不確実性(リスク)がつきものであり、誠実に意思決定したにもかかわらず失敗したような場合にまで会社や株主に対して賠償責任を負うことになれば、経営判断が萎縮してしまい、かえって株主のためになりません。そこで、そのような責任を一定程度分散・軽減するD&O保険のニーズが生まれるのです。
しかし、D&O保険には「支払限度額」が設定されており、青天井に保険給付を受けられる訳ではありません。
大手損害保険会社の商品説明を見ると、
• 三井住友海上火災保険㈱:最高10億円
• 東京海上日動火災保険㈱:保険証券記載の保険期間中総支払限度額
等とされており、取締役の会社に対する責任が兆円単位になった場合、このリスクを引き受けてくれるような保険商品はそもそも存在しないものと思われます(ニーズの問題もありますし、保険料も莫大な額になるのでしょう。)。
なお、D&O保険については、株式会社が保険料を負担して役員の責任を軽減するという側面を有することから、利益相反の問題があると指摘されていました。そのため、2021年3月1日に施行された令和元年改正会社法では、D&O保険を締結した場合には、一定の事項を事業報告や株主総会関係書類で開示するよう義務付けています。その概要については、別の機会にご紹介したいと思います。
この判決をめぐっては、控訴費用(印紙代)はどのように計算されるのか、誰が執行手続を申し立てることができるのか(会社か、原告となった株主か)、取締役が破産した場合に免責されるのか等様々な論点がありますが、それらは別の機会に検討したいと思います。
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