定時株主総会の招集(開催)時期

会社法ネタが続いてしまいますが、定時株主総会の招集(開催)時期(特に、延期の可否)についてもよく質問を受けますので、まとめておきたいと思います。

条文番号は、
法:会社法
規:会社法施行規則 をそれぞれ引用しています。

1. 会社法の定め

法296条1項は、
「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」
と定めています。したがいまして、定時株主総会は一定の時期に招集(開催)する必要があるものの、その時期は法律で決められておらず、各会社が実情に応じて決めることができます。
よく、「決算期(=事業年度の末日)から3か月以内に開催しなくても大丈夫なんですか?」と尋ねられ、実際に、定時株主総会は決算期の3か月以内に開催されることが多いですし、3月決算の上場会社の定時株主総会が6月下旬に集中して開催されることも知られています。

ご参考:
株主総会集中日の決まり方(㈱大和総研)

それでは、法律では定時株主総会の時期が具体的に定められていないにもかかわらず、何故「集中日」が生まれてしまうのでしょうか。

2. 「基準日」=決算期とする慣行

多くの会社(上場会社に限られません。)では、定款で「基準日」と決算期を一致させていることが知られています。具体例を見てみましょう。

トヨタ自動車株式会社の例
(基準日)
第11条 当会社は、毎年3月31日の最終の株主名簿に記載または記録された株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。
<以下省略>

(事業年度)
第45条 当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年とする。

(剰余金の配当等)
第46条 当会社は、毎年3月31日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録株式質権者に対し、剰余金の配当をする。

パナソニック株式会社の例
定時株主総会の基準日第12条 当会社は、毎事業年度末日最終の株主名簿に記載または記録された議決権を行使することができる株主をもって。その事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使することができる株主とする。

事業年度
第35条 当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年とする。

剰余金配当の基準日
第37条 剰余金の配当としての期末配当は毎事業年度末日最終の、中間配当は毎年9月30日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録株式質権者に対し、これを行うことができる。
(以下省略)

東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の例
(定時株主総会の基準日)
第13条 本会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする。
(事業年度)
第33条 本会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする。
(剰余金の配当の基準日)
第35条 本会社の期末配当の基準日は、毎年3月31日とする。
(以下省略)

そして、法124条2項は、
「基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。」
と定めています。この条項のミソは括弧書きの箇所で(会社法や金融商品取引法にはこういった条文が多くあり、弁護士泣かせです・・・。)、要するに、基準日を定めたとしてもその効力は3か月間に限られます。
その結果、定時株主総会において行使される議決権の基準日を「3月31日」と定めると、その3か月後の応当日である「6月30日」(民法143条2項)までに定時株主総会を招集(開催)する必要が生じます。

そうすると、多くの会社では準備期間を設けるために6月の最終週をターゲットとし(5月末には法人税の申告期限が先にやってくる上、上場会社では有価証券報告書の提出準備を並行して進める必要があります。)、その中でも月曜と金曜を避ける結果、6月最終週の火曜、水曜、木曜に定時株主総会の招集(開催)が集中することになります。

3. 定時株主総会の招集(開催)を延期できないでしょうか

定款に定時株主総会において行使される議決権の基準日を定めている場合でも、基準日を改めて定めることで、定時株主総会の招集(開催)時期をずらす(延期する)ことが可能です。このことは、東日本大震災が発生した際に、法務省の公式な考え方としても公表されています。

ご参考:
定時株主総会の開催時期について(法務省)

具体的には、予め取締役会で基準日を定めた上、当該基準日の2週間前までに基準日(及び基準日株主が行使することができる権利)を公告する必要があります(法124条3項)。公告方法は、官報公告、日刊紙公告、電子公告の中から定款で各会社が定めることができます(会社法939条1項)。

ただし、定時株主総会の招集(開催)日が「前事業年度に係る定時株主総会の日に応当する日と著しく離れた日である」場合、そのような日を決定した理由を定めることが求められます(規63条1号イ)。
どのくらいのずれが生じると「著しく離れた日」と評価されるのかは個別の事情によりますが、立案担当者によると、決算期を変更していないのであれば、
「たとえば1か月以上遅れて定時株主総会を開催することとなれば、『著しく離れた日』と評価されることとなるものと解される。」
と説明されています(相澤哲ほか編『論点解説 新・会社法』(商事法務、2006年)470頁)。

4. その他に注意すべき事項はないでしょうか

定時株主総会の招集(開催)時期をずらしても、法人税の申告期限は「各事業年度終了の日の翌月から二月以内」と定められており、しかも「確定した決算に基づ」いて貸借対照表や損益計算書等の計算書類を添付することが求められます(法人税法74条1項・3項)。
したがいまして、定時株主総会の招集(開催)を延期した場合、法人税の申告期限については別途対応する必要があります。

また、有価証券報告書の提出義務を負う会社は、提出期限が「当該事業年度経過後三月以内」と定められているので(金融商品取引法24条1項)、有価証券報告書の提出期限についても対応が求められます。

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