取引基本契約の勘所
個別契約の成立
B to Bのビジネスで頻繁に目にするのが、取引基本契約と秘密保持契約(NDA/CA)ではないでしょうか。
これから、何回かに分けて取引基本契約と秘密保持契約をレビューする際に確認しておくべきポイントをご紹介したいと思います。
第1回のテーマは、「個別契約の成立」です。
以下のような条項例を題材にして検討してみましょう。
申込みと承諾
まず気をつけていただきたいのが、第2項のような「みなし承諾」に関する定めです。注文書の受領の確認手続にもよりますが、放っておくと、注文書に記載されたとおりの数量、単価で、個別契約が成立してしまうおそれがあります。個別契約が成立したと認定されてしまうと、売主としては具体的に目的物の引渡義務を負うことになります。
「目的物を引き渡すのは、ウチの商売だから特に問題は生じないんじゃないですか」
という反応もありそうですが、コロナ禍からの回復途上にロシアによるウクライナ侵攻が重なってしまい、世界的にサプライチェーン(Supply Chain)の寸断が問題になっています。
ご参考:
どうなったウッドショック;価格の高止まりが需要を抑制?(経済産業省)
メタルショックとウッドショック~輸入インフレの猛威~(㈱第一生命経済研究所)
深刻な半導体不足の悪影響は国民生活にも(㈱野村総合研究所)
目的物の引き渡しにあたって原油、石油化学製品、半導体、半導体部品、木材、金属等の調達(納入)が不可欠となる場合、目的物の調達やリードタイムに支障が生じるおそれがないか、今一度ご確認いただく必要があるかと思います。
また、受・発注についてEDI(Electronic Data Interchange)を導入している取引においても、売主は注文の見落としがないよう確認やチェックのフローが準備できているか、検討することも考えられます。
商法509条との関係
次に、商法509条との関係も問題になります。
商法509条2項によると、諾否の通知を怠った場合、申込みを承諾したものとみなされ、やはり注文書に記載されたとおりの数量、単価で、個別契約が成立してしまうおそれがあります。これを避けるためには、(i) 商法509条の適用を排除したり、(ii) 一定期間の経過後には申込みを拒絶したものとみなす旨の定めを置くことが考えられます。
参考となる裁判例
最後に、個別契約に基づく目的物の引渡義務に関して参考となる裁判例をご紹介します。
1. 新潟地裁長岡支部判平成12年3月30日・判タ1044号120頁
1996年(平成8年)に突発したナイロンブームによってナイロン生地の一般需要が増大し、スキーウェア用のナイロンタフタを納入していた業者が「希望納期」どおりにナイロンタフタを納入できなかったとして、約1億7000万円の損害賠償請求を受けたという事案です。
裁判所は、発注時に指定された「希望納期」を
「被告の債務履行についての『確定期限』と考えるべきではなく、個々の発注ごとに事情が許す限り右期限までに納品する目安の期日と考えるのが相当である」
と述べて、損害賠償請求を認めないという判断をしました。
2. 福岡高判昭和50年3月26日・判タ326号232頁
韓国産のレンゲの種子の売買取引において、日本における植物防疫検査が不合格になったため、期限どおりにレンゲの種子を引き渡すことができなかったとして、75万円の損害賠償請求を受けたという事案です。
裁判所は、
輸入しようとしたレンゲの「種子が防疫検査に不合格になることを予測できなかったからといってこれを過失と見ることはでき」ない
と述べて、売主(輸入業者)に帰責事由がなく、損害賠償請求を認めないという判断をしました。