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vol.2 『夢を走る』

年末から年始にかけての一冊は日野啓三の『夢を走る』であった。昨年は人生で最も本を読んだといってもいいような一年となった。何故そんなにも読書熱が高まったのか、国内文学とミステリーという敬遠していた二つのジャンルを遂に楽しめるようになったからであろう。
年の暮れには、より自分の好みの方向へと突き進んで渡辺温や城昌幸、山川方夫、そして日野啓三へ遭遇し大変満足のいく一年であった。

最後に読んだ小説が強烈であったなんて都合がよい様にも思えるが、新天地へと足を踏み入れて歩き回った末に元の場所へと帰ってくるような不思議な読書体験であったのは間違いがない。国内文学を読み漁る前にはシュルレアリスムやニューウェイブSFを読んだりしていたが、そこへ帰っていくような感覚を味わった。
『夢を走る』は都市幻想小説といった呼ばれ方をしているが、果たしてそういったジャンルで他の作品が存在するのだろうか。都市が指す無機的な存在に対する稲垣足穂の様なニュアンスは理解ができる。同時に森を舞台とするファンタジーや村を舞台とする怪談話をモダン化するというニュアンスも含まれているように思う。敢えて分類するならば本作は硬質なファンタジーといったところだろう。
新感覚派のような語り口だからか、どこかJGバラードが描く内的宇宙と似た雰囲気が感じられる。

五感が捉える微小な違和感と共に、静かに近寄る異界。エンタメならば登場人物が立ち向かうであろうところを、心地よく思い適用していこうとする様は読者像と重なる。この短編集が持つアンビエントさが堪らなく愛おしい。

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