ICER(アイサー)とはどんな組織か?
医療経済学の中でICERというと、普通は「Incremental cost-effectiveness ratio」というのが出てきますが、今回取り上げるのは「Institute of Clinical and Economic Review」という組織のことです。
Incremental cost-effectiveness ratioというのは、前回のQALYのときにも触れた概念なのですが、1QALY得るのにいくらかかるのか、ということと思っていただければよいです。
さて、Institute of Clinical and Economic Reviewですが、米国マサチューセッツ州ボストンにある独立研究機関でして、設立は2006年です。2006年頃というのは、抗体医薬など生物学的製剤が続々と市場に投入されていた時期なので、そういった需要があったのでしょう。最近の米国では希少疾患の医薬品が増えていることもあって医薬品の価格が高騰しています。記憶に新しいのは、Novartis社(創製はAvexis社)が承認を取得した「ゾルゲンスマ(Zolgensma)」という脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy(SMA))の遺伝子治療薬で、価格が2億円!!です。こういった2億円という価格が適正なのか、もっと高くてもいいのか、それとも安い方がよいのか、といった価格設定は製薬会社自身ではなく、やはり第3者が算出した方がよいよね、という考えは皆さんにもなじむんじゃないか思います。ですので、第3者の視点から価格を計算するICERは、「watch dog of drug pricing(医薬品価格の番人)」と呼ばれています。最近の傾向ですと、自由薬価の国アメリカ、といえどICERが計算した金額より高い価格を設定する製薬会社はなく、先ほどのNovartis社のゾルゲンスマもICERが2億円が適正価格だ、とのレポートを出したので2億円になっています。そうじゃなければ5億円の販売価格になっていた可能性大です(ゾルゲンスマの事例は近い将来取り上げる予定です)。
ただ、こういった独立機関を運営するにもお金は必要です。どういったお金の出所になっているのか、そういった内容もすべて公表されています。
大半は、非営利の財団からのお金で賄われていますが、製薬会社からのFundingもあります。面白いのは、Allergan、Alnylam Pharmaceuticals
AstraZeneca、Biogen、Boehringer-Ingelheim、Editas、Genentech、GlaxoSmithKline、Janssen、LEO Pharma、Mallinckrodt Pharmaceuticals、Merck & Co.、Novartis、Prime Therapeutics、Regeneron、Sanofiといった名前を連ねている会社は比較的高額医薬品を出している企業が多いということです。Editasはゲノム編集のスタートアップ企業ですが、まだ上市した製品がないにもかかわらず、将来的な価格設定に備えてか、fundingをしています。(Fundingが有利な価格設定に結び付くわけではありませんが、どういった計算根拠となるのか、会議への参加や傍聴ができれば、エンドポイントの設計など臨床開発戦略にも活かせるのかもしれません)。
次回は、ICERが採用しているの価格計算フレームワークについてご紹介する予定です。
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