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インパクト投資5.8兆円とその「外側」
はじめに
「日本のインパクト投資の投資残高は5兆8,480億円。前年度比で4.4倍。」
というニュースが、本年5月、インパクト投資界隈で話題になりました。
インパクトとは「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果」のこと。「インパクト投資」とは、従来の投資はリスクとリターンの2軸で投資判断されてきましたが、ここに第3の軸として「インパクト」を加えた投資手法です。
インパクト投資の日本における投資残高が5兆円を超えたというニュース。これはどのような意味をもつものでしょうか?
また、今後の日本のインパクト投資にはどのような見通しがあるのでしょうか?
インパクト投資という呼び名がまだなかったころから(その頃は社会的責任投資(SRI)という呼称もありました。)実務で関わってきた私が、インパクト投資の現在地と今後について書かせていただきました。
インパクト投資残高5.8兆円のもつ意味
日本のインパクト投資の投資残高の情報は、GSG国内諮問委員会(※)という、日本においてインパクト投資の普及推進に長年取り組む民間団体が、毎年発表している情報です。日本のインパクト投資の投資残高が5兆8,480億円になったという情報も、GSG国内諮問委員会が発行した年次レポート「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2022年度調査」という年次レポート内で発表されたものです。
(※)GSG国内諮問委員会
2013年に、当時の先進国首脳会議(G8)の議長国であった英国・キャメロン首相の呼びかけにより創設された組織から発展した、The Global Steering Group for Impact Investment(GSG)の日本における国内諮問委員会。インパクト投資に関する調査研究・普及啓発・ネットワーキング活動を通じて、インパクト投資市場やエコシステムの拡大に貢献している。
なお、この数字は、2022年3月末時点の投資残高を表しています。
(ただし、一部の金融機関からの回答では9月末時点の情報も含まれている模様。)
5.8兆円という数字が普段の生活からはかけ離れていますので分かりづらいですが、過去からの変化量を示した下図を見れば、インパクト投資界隈が驚くのも頷けます。2020年から急激にインパクト投資の投資残高が増えており、数年前には想像もつかなかった数字なのだということがおわかりいただけるのではないでしょうか?
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とはいえ、世界のインパクト投資残高は1.2兆ドル(約170兆円)とも言われています。世界のおよそ3%程度の規模しかないと考えると、まだまだ日本のインパクト投資市場には大きな成長余地がありそうだ、ということもご認識いただけるのではないでしょうか。
インパクト投資における、成果の測定と発信
5.8兆円の投資残高と言われるインパクト投資。
この算出に組み込まれる条件のひとつとして「その投資がもたらした社会的な変化(インパクト)を測定していること」があります。
インパクト投資においては、実際の社会変化(インパクト)面の成果の測定が要件として求められていることから、最近では金融事業者のあいだでも、インパクト測定とその結果の発信に関して検討が進められています。(参考:インパクト志向金融宣言ウェブサイト)
昨年比で4.4倍になったインパクト投資は、インパクトの測定の実践数においても今後伸びていくことでしょう。また、インパクト測定をした結果の発信としてのインパクトレポートも増えていくものと予想されます。
(インパクトレポートについてご関心ある方は、以下の過去note記事を覗いてみてください。)
note過去記事:
インパクトレポートとは〜インパクト設計の重要性とレポート公開企業一覧〜
インパクトは、インパクト投資だけから生まれるわけではない
インパクト投資の投資残高は、インパクト(社会変化)を創出しようとする事業に向かう、投資家から事業への資金の流れの規模を表します。
しかし、インパクトを創出しようとする事業が全てインパクト投資を受けているわけではありません。インパクト投資を受けている事業以外にも社会課題解決を目指すビジネスや、ポジティブなインパクトの実現を目指す事業がたくさん存在します。
例えば、大企業が社会課題解決型ビジネスを生みだそうとしている例は最近増えてきていますが、企業が自身のもつ資金をつかって行う事業は、インパクト投資の投資残高の中には含まれてきません。
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最近では、新しいビジネスを模索する際に、社会課題の解決や、様々なステークホルダーとの共創を掲げる企業も増えており、インパクトの考え方への関心が高まっています。
そのため、社会的・環境的インパクト創出を目指す事業への投資は、5.8兆円のインパクト投資の投資残高の「外側」でも増えています。
インパクト投資の絡まない事業でも期待される、インパクト創出にかかる成果の測定と発信
社会課題の解決や、ポジティブな社会変化を目指す事業のうち、インパクト投資の絡むものと、絡まないものがあるというお話をしました。前述のとおり、インパクト投資では創出された社会変化(インパクト)の成果について、測定と発信が求められていきます。
では、インパクト投資の絡まない事業では、どのような測定と発信が求められるでしょうか?
結論から申せば、インパクト投資の絡む事業と同様に、インパクト投資の絡まない事業でもインパクトの測定と発信が求められます。
インパクト投資においては、インパクト投資と外部から認められるための要件として、測定と発信が求められているという説明を既にしました。しかし、社会課題の解決やポジティブな社会変化を目指す事業であれば、(要件として求められているかいないかに関わらず)実際にインパクトを創出できているのかの確認は必須になるでしょう。
同様に、インパクト投資の絡まない事業においても、事業へのリソース(時間、労力、資金など)投下の妥当性を(社内で)説明するためや、より効率的な事業運営のために、事業が創出するインパクト面の成果の測定と発信が必要になります。
インパクト投資の絡む事業のみならず、インパクト投資と関係のない、社会課題解決を目指すビジネス全般で、インパクト測定が当たり前になる未来が近いのではないかと思います。インパクトレポートも、社会課題解決に取り組む様々な企業から多様に発信されていくようになっていくことが楽しみです。
おわりに
今回は、「日本のインパクト投資の投資残高は5兆8,480億円。前年度比で4.4倍。」というGSG国内諮問委員会の発表について、この状況が数年前には想像もつかなかった大きな変化であることをご案内しました。
一方で、インパクト投資というのは、世の中に存在する社会課題の解決を目指す事業やポジティブな社会変化をもたらそうとする事業のうち、外から資金調達をしている場合に生じる投資ですので、この数字で表されるものの外側に、多くの社会課題解決型ビジネスが存在することもお伝えしました。例えば、大企業が社会課題解決型ビジネスを生みだそうとしている例は増えてきていますが、企業が自身のもつ資金をつかって行う事業は、インパクト投資の投資残高の中には含まれてきません。
そうしたインパクト投資が絡まない事業も含めて、事業が生みだした社会変化(インパクト)が測定されて発信されていく事例が、どんどん増えていくことが楽しみです。
インパクト投資について知りたい方はこちらの記事もどうぞ
トークンエクスプレス株式会社は、企業に対して、インパクト測定・マネジメント(IMM)という手法をもちいて、事業が創出する社会変化(インパクト)の可視化、指標設定のご支援をしています。事業を通じたインパクトの創出について、少しでもご関心のおありの方は、ぜひお気軽にお問合せください。
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