「はい、泳げません」感想
見たかったのに長いこと見れなかった映画です。
最初円盤と同時にデジタル配信してくれるかなぁってずっと思いながら待っていたんですけど、一向にU-NEXTしか流してくれなかったのでそれで見ました。はい(泣)
それで、一言でこの映画を表すなら……。
「純文学的な映画」
だと私は思います。
原作はエッセイ、つまり純文学の物語を映像化しているので、どうしてもアウトプットが足りない部分が出てくるんです。勿論、この映画にもそれが出ていました。
ですが、その足りない部分はあまり気にすることなく楽しめた、純文学的な映画だと思います。
※ネタバレ注意
・小鳥遊雄司
この映画の論点は「泳げなかった彼がどのようにして泳げるようになったのか」。ここが最大の論点となります。
最初の入り、つまり一幕にあたるシーンでは泳げない小鳥遊が苦手な水に四苦八苦しながら水泳に取り組むという描写が描かれます。
そこで、最大の論点となる疑問が生まれます。
「なぜ彼は水が苦手なのか」。
この論点を二幕から三幕に当たる後半部分へと残していきます。
そして、薄原静香コーチを彼が見掛ける時のシーン。
静香コーチが車に傘を向けているところを彼が目撃します。
気にかけた彼は彼女を車に乗せようとしますが、断れ先に目的地のプールに辿り着き、その後で彼女を迎えにいく。
この際に注目したのが、彼女もまた、物が苦手だということ。
薄原静香コーチは若い頃に交通事故に遭い、それで車が苦手となった、ということを小鳥遊に告白します。
これ、何とも思わなかったんですけど、小鳥遊の苦手意識を克服するために重要なキーワードだったなのかな、と思います。
中盤に入れば、小鳥遊が水を怖がる理由が徐々に明らかになり、後半になればその全貌が明らかになる。
そして、その恐怖のあまり彼は水泳教室に来なくなる。
それを気に掛けた静香コーチは彼に電話をして、自らの過去を明かします。
静香コーチは小さい頃から水泳をやっていて、楽しく日々を過ごしていた。だけど、20代の頃に交通事故に遭い、骨盤骨折で歩けなくなる。その時に絶望をしたが、夢で泳ぐ夢を見て「また泳ぎたい!」という思いを抱き、その喜びを感じ、リハビリを頑張った。
その時の感情を、泳げない彼に感じて欲しい。その思いで取り組んでいたことを小鳥遊に明かします。
「人生は死ぬまで続くんです。その長い人生を、泳ぐ楽しさで彩って貰いたいんです」
この台詞が彼女の想い全てを表しているんじゃないか、と思います。
ふぇぇぇぇぇ。。良い台詞。
苦手な物、自分を恐怖の底に陥れた物は違えど、泳ぐ楽しさを死ぬまで続く人生に彩れば、きっと楽しくなる。
実に静香コーチらしい台詞だなぁって思います。はい。
その後、小鳥遊の過去について現代パートと時間が流れていきます。
まあ、どうして小鳥遊が水を怖がったのか、それを簡単にまとめます。
数年前に息子を不慮の水難事故で亡くす。
↓
元妻の美弥子と「なぜ泣けないの?」という自分勝手な理由で何度か繰り返す。
↓
離婚。
という感じ。分かりやすく絶望の淵を辿ってます。
過去で絶望の淵を辿っていると同時に、現代でも過去の記憶を思い出して溺れかけます。
目を覚ましても、「なぜ泳ごうとするのか」という点で水泳教室に行かなくなります。
自分を見失っている中、恋人である奈美恵が静香コーチに出会い、「明日の夜待っているって」と声を掛けます。
彼女の後押しもあり、彼は迷いつつ水泳教室に。
そこで泳ぐ楽しさを見つけつつ、同時に過去の記憶についても思いだせるように。
次第に泳ぐ楽しさを感じながら、"あの頃"についての記憶まで過去を辿っていくようになり、ついには"あの頃"についても思い出してしまう。
愛していた息子を、助けられなかった。
あと一歩のところで、息子は助けられなかった。
無我夢中で泳ぐ彼は次第に溺れかけ、プールの壁に頭をぶつける、浮かぶ黄色の衣服目掛けて掴もうとする。
その際に叫ぶ彼のシーン、すっごいジーンとくるなあって思いましたよ。。。
愛していた息子をあと一歩のところで助けられなかった。
自分が泳げなかったから、助けられなかった。
本当は泣きたかったのに、泣けなかった。だから、美弥子と別れた。
夜のプールシーンが印象的でした。
あとあと、最後のシーンも良かったです。
最初の頃は水が苦手で、ブルース=リーみたいな顔をしていたのが、最後は溌剌とした笑顔になる。
これって、結構良いシーンだと思いません?
・気になったところ
・序盤のシーン
とはいえ、序盤がぐだっていたのは否めません。
ダイジェストで「magic!」を流せば良かったのになぁって思いながら見てました。
・小鳥遊と美弥子の初めての出会い
ここの部分、アウトプットが全く足りない。
線がどうのこうのって言われたって、だからなんだ!!!!!!! ってなるんですが。。。
もう少し台詞欲しかったなぁ。。
・ブルース=リーなどのような古い表現
純文学的な映画なので、古い表現がつくのは当たり前なので否めることはできないのですが、もう少し補足的な説明が欲しかったなぁって思います。
ブルース=リーだの、そんなの言われたって分からんよ。
・結論
世間では「大爆死」だの滅茶苦茶に批判されていましたが、蓋を開けてみれば結構面白かったです。
まあ、純文学的な映画なので、好きな人は好き、苦手な人は苦手、そんなことが言える映画でした。