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管理会計で戦略を育てる(前編)

気づけば戦略が見えなくなっていませんか?

戦略を考え、計画に落として実行しようと準備しても、毎日いろいろなことが起こる中でいつの間にか当初の計画や戦略がどこかにいってしまう。経営メンバーだけじゃなく、マネジャーやスタッフまでもが計画や数字を意識して動いて欲しいけど、日々忙しく過ごしていると意識が弱くなってしまってその場その場での対応になってしまう。

戦略や計画を常に意識しながら実行する、計画と実際の差分を把握しながら何が足りないのか考える、必要に応じて戦略や計画をアップデートしていく。せっかく時間をかけて戦略や計画を作っても、これらを意識しながら実行していかないとうまくいきませんが、実際のところこれらをチーム任せにしていてもなかなかうまくいきません。

そして、このような状態を放置していると社内から「うちの会社の戦略がない」「経営陣の言っていることとやってることがつながらない」というような声が上がってきて、経営陣の意図とは戦略不在の会社になってしまい、経営陣が考え抜いた戦略が実行されずに終わってしまったり、メンバーの間になんとも言えない不安な空気が蔓延してしまう原因ともなります。

このようにならないために必要なのは、気合いや根性ではなく戦略を育む仕組みじゃないかなと考えています。

戦略と管理会計で経営管理プロセスを作る

戦略の実行力を高め、実行結果から組織学習をするためにめちゃ相性のいいツールが管理会計です。相性がいいというよりも戦略と管理会計は表裏一体の関係にあると言ってもいいくらい切り離せないものだと考えています。

管理会計はたくさんの方が定義されていますが、私は「会計情報を経営者の意思決定や業績の測定・評価に役立てることで経営目標の達成を支援することを目的とした会計」であると理解しています。
管理会計は経営目標の達成のために数字を管理するだけではなく組織を動かすことを目的とする会計であり、事業を成長させるために欠かせないマネジメントの仕組みであるということです。

どうして管理会計は経営戦略と表裏一体となって経営管理の仕組みを作ることができるのかという点について説明します。

戦略や事業計画を作るとき、多くの会社は毎年事業計画を策定するために短くても3ヶ月、長ければ半年以上をかけて策定されていらっしゃるのではないかと思います。

これだけの時間と人的コストをかけて策定する戦略や計画なので、高い成果を上げるための精度の高いものを策定するに越したことはないですが、どれだけコストをかけて検討したところで100点満点の戦略や計画を準備することは不可能だと思いますし、完璧な戦略の策定を目指して膨大なコストをかけることが果たして正しいのでしょうか?

変化が激しい現在の経営環境下において、戦略策定に時間と労力をかけすぎることは大きなリスクとなってしまいます。

戦略にも2つあって、大きな方向性を決めるような戦略、一度決めたら方向修正をしづらい大枠の戦略と大きな方向性を実現するためのより具体的な戦略がありますが、特に具体的な戦略については膨大なコストをかけて作るよりも、戦略を実行するプロセスの中で細かく検証し、検証結果から組織学習して戦略自体を見直しながら戦略を育てていくことが重要じゃないかと考えています。

そこで大事になるのは、仮説としての戦略を策定し、戦略実行を繰り返しながら差分を把握して、差分を埋め合わせるための分析を行いながら戦略にフィードバックを繰り返すことで、戦略を実行していきながら戦略をアップデートしつつ精度を高めていくことです。

このような考え方はマッキンゼー・アンド・カンパニーの創業者でもあるJ.O.マッキンゼーも語っています。
今から100年以上も前に出版されたJ.O.マッキンゼーの著書「budgetary control」では予算管理の重要性が語られていますが、予算管理は戦略の実行力を高めるために有効であり、そのためには経営管理部門だけで綿密な予算を作るのではなく、販売、製造、企画、経営管理など社内の各部門が十分に連携を図るとともに、一度策定した予算に固執することなく、常に環境変化をキャッチアップしながら方向修正し続けることが重要であるとされています。

この戦略立案、戦略実行、戦略分析、フィードバックという一連の仮設検証プロセスをマネジメントするために管理会計が強力なツールとなります。

戦略と管理会計の関係

戦略と管理会計を一つの仕組みで捉えることで得られる大きなメリットとして、財務の構造化が挙げられます。

財務というのは、売上高や原価やコストなどの費用項目、さらに売上からコストを差し引いて計算される利益などから構成される損益計算書の世界であると考えていただきたいのですが、基本的に財務の世界は金額という統一された単位の元で会計という一定のルールにしたがって業績が表示されます。
比較がしやすくなる、ルールが明確であるという財務のメリットはありますが、一方で金額という結果指標のみの業績となるため、結果に至るまでのプロセスやKPIの動きを把握しづらいというデメリットもあります。

この財務という世界のデメリットを補ってメリットを享受するために戦略と管理会計を一体で捉えて財務を構造化することが経営管理上、非常に効果的な仕組みとなります。

財務を構造的に捉えることで戦略と財務を関連づけることができるようになります。これによって、マーケティング戦略、営業戦略など個別の戦略が事業の最終成果としての財務に与えるインパクトを把握することができるようになります。

この効果は非常に大きく、自分の業務や自部署の成果が他部門にどのような影響を与えているのか?最終成果として事業の業績にどのような影響を与えているのか?が定量的に把握できるようになるため、戦略実行による事業進捗や戦略実行の結果の良し悪しを事業全体を踏まえた数字で把握でき、うまく活用できれば学習プロセスを回す上でとても有効な仕組みとなります。

財務を構造化するための3つの要素

財務の構造化は、大きく分けると財務モデリングと業績予測、予実管理の3つに分解することができます。財務モデリングで仮説としての戦略を数値化し、戦略を実行した結果を予実管理でタイムリーに検証しつつ、戦略にフィードバックすることで仮説・検証プロセスを回し、財務をKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)まで巻き込んで構造的、立体的に捉えることができるようになります。

財務モデリング

財務モデリングとは、計画上の損益計算書(以下、「計画PL」)をそれぞれの勘定科目ごとの戦略や具体化した変数(KPIなど)に分解してツリー構造で捉え、事業活動の諸要素を変動させた際に、財務状況がどのように推移するかをモデル化することです。
例えば、予算を策定する際に単なる損益計算書項目(売上ー売上原価ー販管費=営業利益)だけでロジックを作るのではなく、財務数値をKPIなどの諸要素に分解してした上で、勘定科目とKPIをつなげることでツリー化していくことで財務モデルを作ることができます。

業績予測

業績予測とは、財務モデリングによってモデル化されたPLをベースに定期的(実務上は週次ベースが多い)にKPI等をアップデートしながら業績の進捗を把握しつつ、将来の趨勢を加味しながら業績を予測することです。
KPI等など経営管理部門だけではタイムリーに把握することが難しい指標をアップデートする必要があるため、事業部門などを巻き込んだ体制を作っていくことが重要になります。

予実管理

予実管理とは、仮説としての財務モデルを実績と比較しながら検証プロセスを回して戦略や計画にフィードバックするプロセスです。
予実管理の効果を高めるためには実施頻度を増やすことが重要であり、最低でも月次、売上や主要なコストなど重要性の高い項目については週次のプロセスで検証をしていくことがポイントとなります。

これらの3つの手法、財務モデリングと業績予測、予実管理を組み合わせながら、単なるエクセル上での表としてではなく、部門横断的な経営管理の仕組みとして構築することがポイントとなります。

後編に続く


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