彼の18年、俺達の6年。One Four Kengo
2013年後半、職場の健康診断で引っかかった私は鼻から胃カメラを入れていた。
医師に画像を見せてもらえるようお願いし、フゴフゴしながら眺めたモニターにははっきりと大きな炎症の胃壁が映ってた。
「薬出してもいいんですがね、要因解決しないと再発して意味無いんですわ」
ストレスによる慢性胃炎。
数年前から諸々ありまして、実家に避難。
とどめに虚弱であった親が死去。
緊急入院から葬儀へ、命を送る現場は本当に過酷で心のダムが決壊してしまったのだ。
嗚呼、幸せの定義が違う。
胃炎って背中にギリッと鈍痛走んのね。
命をこれ以上擦り減らせない、手続きして仕事も辞めた。
そんな2014年夏、一周忌も終えてこれからどうする?
一人で生きていかないと。
ふと親の言葉を思い出した。
「死ぬ迄はそばにいてほしい。でも死んだらこの世界のどこに行ってもいい」
言魂発動、長年住み慣れた土地を離れた。
当初は御殿場か名古屋が候補地だったんだけど。
転職条件が寮付き、中年でも可みたいな。
それをポロッと知人に洩らした。
「折角なら関東に来ませんか?僕が美味しいクラフトビールの店に沢山連れて行きます」
え?それ信じていいの?
転職情報誌を調べ直し、目に飛び込んだ
「中央線一本で都心へ!八王子で働きませんか?」
えー、すっげぇ知人に笑われたよ。
新しい仕事はとっても大変で、2年で14kgも痩せたけど、知人はあっという間に恋人になり、川崎へ転居。
同棲を経て入籍、国家資格を取得し仕事量を減らし元の体重へ戻ったとさ。
えー、サッカーの話をしろ。
そうですね、前置き長いっスね。
彼は川崎フロンターレのサポーター。
丁度中村憲剛選手入団の頃からだとか。
「その位に地域でプロモーションすごくてね」
元々海外サッカーも好きなのでハマり、一時期転勤あって九州にいたのにシーチケ勿体無いからとLCCで等々力へ通ってたりした。猛者というか引越は嘘でしょまで言われてた。
私の方も一時期Jリーグにハマってた人だった。
彼はチケットを用意し改修中の等々力へ招待。
それは私が見てたサッカーとはまた違うモノだった。
当時カウンターサッカーと呼ばれる試合を多く見てた記憶があるが、フロンターレはまずGKがDF陣の誰かにボールを預け後方からパスでビルドアップをはかる。
試合終わって尋ねた。
「フロンターレのGKはパントキック蹴るなって監督に言われてるの?」
ボールコントロール、針の穴に糸通すようなパス、時には繊細、時には大胆に攻め上がる、そんなサッカーに虜にならない訳がなく。
タオマフが全選手揃っているよ、ずぶずぶ。
グッズ沢山出るの、ずぶずぶ。
ガチャフロって射幸心そそるよね、ずぶずぶ。
気がつけば職場の同僚にはいつも青いと言われる始末。
そしてそのアズーロ・ネロを纏う我等が旗頭がいた。
何食わぬ顔して試合の勢いを一気に変えてしまう、不思議な猫背の青年。
実は私、川崎に来る前別のスタジアムでその勇姿を拝んでいたのだった。
(故障開けだったかしら)途中交代でピッチに入るやいなや試合の流れがあっという間に変わった。
繋がるパス、連動する選手達の動き、あぁあの時全て持ってかれたんだ。
あらためて、中村憲剛選手。
本当にありがとうございました。
付き合い始めた頃旦那は「儂の目の黒いうちに優勝が見たいんじゃよ」とのたもうておりました。
私は「何言ってんだよ」と返してましたが、吹田での天皇杯、ルヴァンカップ、数々の激闘に立合い悔し涙を流しました。
「やれ無冠ターレだのシルバーコレクターだの言われてるのが実感できたでしょ」
吹田では膝が痛み出し、満身創痍で川崎へ帰りました。
でもお陰様で優勝を見る事ができました。
旦那が持ってたカブレラもラベルに無い古い青覇テープ、等々力に投げ入れました。
埼スタで延長PK戦までもつれ込み、心臓がおかしくなりそうだったルヴァンカップ。
苦しかったけど、すっごく嬉しかった!
あの感激を与えてくれたのは貴方です。
貴方と選手・スタッフ・フロント・マスコット、皆様のお力あってのことです。
あぁ、でもね寂しいんです。
旦那が「憲剛じいさん頑張れ!」と言い出し私が「あんたの方が爺だろ!」とツッコめなくなります。
もっとも今はコロナで声を発することもできませんし、席も離れることがあります。
精一杯の拍手しかできないけど、サッカーが見られる風景がどんなに大事だったか。
「そんなにアウェイ行ってどっから旅費出てるの?」
「えー、節約してるよー」
みたいな話もし難い。
それでも何とかしてスタジアムに辿り着いて、ピッチを追う視線の中に貴方がいない。
まだどうやって受け止めようか悩んでいます。
でも噛みしめるんです。
「何にも無くなりはしない、形が変わっていくだけさ」
とある歌詞なんですがね。
憲剛さんの新しい人生に幸多かれ!
天皇杯も優勝しましょう!
乱文お付き合いいただき誠にありがとうございました。