【絵本 ちいさいおうち】
【並べて楽しい絵本の世界】Dear Virginia①
むかしむかし、ずっといなかの しずかな ところに ちいさいおうちが ありました
とてもきれいなピンク色の壁で、しっかり じょうぶにたてられて いました。
ながいあいだ、おかのうえから まわりのけしきをながめながら しあわせに くらしていました
この本の主人公は「ちいさいおうち」
原書には
THE LITTLE HOUSE
HER STORY とあります。
残念ながら、日本で出版されている本には、この
【HER STORY】が表紙に描かれていません。
表紙をめくると、ヒナギクの花輪が描かれていて、ここには作者の夫のジョージ(ドジー)への献辞が書かれているのですが、日本国版にはそれもありません。
けっこう重要な部分だとおもうのですが、なぜ省かれてしまっているのでしょう。いろいろ調べてみたのですが、版元の意図はわかりませんでした。
(※文末 追記あり)
ちいさいおうちが、出版されたのは1942年です。
このかわいいおうちは、いま79歳のおばあさんです。
この絵本を開いてみるとき、さまざまな目を感じることができます
たとえば、今この本を読んでもらっているこどもの目
「可愛いおうちだなぁ、自分もこんなおうちに住みたいな」かもしれませんね。
そのお母さんの目
「こんな土地にすんでみたいな」、とか。
「こどもが自立したらこういうところにすみたい」なんて思うかもしれません。
建築家、歴史家、デザイナー、の目
アトリエが欲しくなるかもしれませんね。
バージニア・リー・バートンは、一日の時間の流れ、季節の移ろい、時代の進歩と変化を見事な手法で描いています。
彼女の絵本に共通しているのは、作者の視点、その位置です。
奥行のある構図とスピード感のある動き。
まるで、そらの上から、この世界を見渡しているような位置にその視点があり、私たちにものごとを見る力をしめしています。
20世紀初頭のアメリカ。
産業革命とともに、工業化が進み、みるみるうちに「ちいさいおうち」の周りが開発されてゆく光景は、胸のいたくなるものがあります。とても力強く精密に人々をとりまく環境の変化が描かれていきます。
作者はこの可愛い絵本を通して、今の私たちに現在の「環境問題」をも提示してくれているようです。
それと同時に、人間の「幸せ」の捉え方を再認識させてくれます。
最後、住む者もなくなり、高層ビルに囲まれて年を取り、荒れ果てた家を、何代ものちの子どもが発見して、新しい「丘」を探し、家ごとそこへ移します。
おうち(おばあさん)は自分では何もできませんが、ちゃんと見つけてくれる若い人があらわれて、彼女を原点の場所へと連れて行ってくれます。
長い人生、勝ち取っていくものもあったり、成し遂げるものもあったり。
でも、ただそこに在るだけで、誰かの家になることもできたり。
さまざまなシーンでたくさんの人にこの本を送りたい。
追記:
私の手元にある2000年46刷には、HER STORYの表現がないのですが、現在書店に並んでいる本には、ちゃんと描かれていました。訂正させていただきます。