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ルシール・アザリロヴィック『The Ice Tower』少女が見た"雪の女王"と不在の母親
2025年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ルシール・アザリロヴィック長編四作目。1970年代の冬のある日、16歳のジャンヌは児童養護施設から逃げ出して谷間の街にやって来る。そこで彼女は偶然か必然か映画スタジオに転がり込み、そこで大女優クリスティナの演じる"雪の女王"に出会う云々。題材となっている「雪の女王」が映画内映画として登場しつつ、クリスティナと雪の女王がほぼ同一人物のように語られるので、エキストラとして参加する→出世してゲルダを演じることになってクリスティナと向き合う機会の増えたジャンヌとクリスティナとの間で、映画内映画での役柄としての関係性とセットの外での関係性が重なり合っていく。ジャンヌが6歳のときに服薬自殺した母親の死体が"冷たく美しかった"と述べており、ここから"雪の女王"への憧れも不在の母親を求めているのと同義なのだろう。だからこそ、クリスティナからの愛を得ようと苦心し、撮影現場でのトントン拍子の出世を別の意味で喜んでいるのだろう。とはいえ、肝心の映画内映画の撮影セットがチープかつ、演じているクリスティナの終始機嫌の悪いガキみたいな側面ばかり強調されてしまうので、"雪の女王"という存在に圧倒されるような力がなく、彼女に惹かれ彼女の気を引こうとする主人公の温度感について行くのが大変だったし、中盤の追いかけっこはほぼ同じことの繰り返しなので冗長に感じてしまった。端々に監督のフェティシズムを感じるが、カテ&フォルザニの、それ以外を一切廃する覚悟の決まった高純度のフェティシズムを目撃してしまうと、本作品くらいのマイルドなフェティシズムでは到底敵わないと思うなど。ちなみに、映画内映画の監督役で監督のパートナーであるギャスパー・ノエが登場していた、らしい。言われても気付けなかった。
・作品データ
原題:La tour de glace
上映時間:118分
監督:Lucile Hadžihalilović
製作:
・評価:50点
・ベルリン映画祭2025 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
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8 . ルシール・アザリロヴィック『The Ice Tower』少女が見た"雪の女王"と不在の母親
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★パースペクティブス部門選出作品
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