見出し画像

ヴィヴィアン・チュウ『Girls on Wire』中国、ワイヤーを使えば人間も空を飛べる

2025年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ヴィヴィアン・チュウ長編三作目。ファン・ディとティアン・ティアンは従姉妹だが、同じ家で姉妹のように育った。しかし、ティアンの父親がギャンブル中毒で借金まみれなのを家族全体でケアする関係で、この二人以外は険悪な雰囲気になりがちだった。それでも、ファンの母親が兄弟であるティアンの父親に"助けて"もらった過去があるせいで、彼を切り離すことが出来ず、そんな家族に嫌気が差したファンはティアンを置いて家を離れてしまった。5年が経ち、北京で女優を目指しながらスタントウーマンとして活動するファンの前にボロボロになったティアンが現れ、彼女を追いかける麻薬カルテルのメンバーも現れる云々。ティアンは頻繁に"空を飛びたい"と口にし、不吉の象徴であるカラスを自身と重ね合わせていて、それがスタントウーマンとして黒服で空を飛ぶファンの姿と重なるのが良い。人間もワイヤーを使えば空を飛べるのだ!という、ちと強引な気もするけどパワフルなメッセージだ。ティアンが追われているのは、やはりクズ父のせいなのだが、彼の借りを背負わされるにしてはやや不自然な設定も目立ち、特に冒頭に起因する齟齬が最後まで尾を引いてしまっている感じはする。ティアンを追う麻薬カルテルのメンバーも、どこか『ANORA』のへっぽこ三人組を思い出させつつ(エキストラに扮してファンを捜索するシーンは爆笑が起こっていた)、所属も目的もいまいちクリアにならないのは勿体ない。全体的に痒いとこに手が届かない感じとか、ティアン役のリウ・ハオツンが有名な若手女優であることを考えると、ハン・シュアイ『緑の夜』を思い出した。あと、スタントウーマンの仕事環境ってマジであんな感じなの?死亡事故が普通に起こりそうだけども…ちなみに、原題は"空を飛びたい女の子"だそうです。

・作品データ

原題:想飞的女孩
上映時間:115分
監督:Vivian Qu
製作:2025年(中国)

・評価:70点

・ベルリン映画祭2025 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . レオノール・セライユ『Ari』幼稚な男が自分と向き合うナイーブな映画
4 . ミシェル・フランコ『Dreams』アメリカとメキシコ、独占欲を巡る恋
6 . ヴィヴィアン・チュウ『Girls on Wire』中国、ワイヤーを使えば人間も空を飛べる
7 . レベッカ・レンキェヴィチ『Hot Milk』スペインのビーチで毒親と妖精に囲まれて
8 . ルシール・アザリロヴィック『The Ice Tower』少女が見た"雪の女王"と不在の母親
9 . メアリー・ブロンスタイン『If I Had Legs I'd Kick You』ワンオペ母の"アンカット・ダイヤモンド"
11 . Huo Meng『Living the Land』中国、麦畑を囲む春夏秋冬
12 . Iván Fund『The Message』アルゼンチン、動物と交信できる少女の無邪気なロードムービー
16 . カトライナ・ゴルノスタイ『Timestamp』ウクライナ、戦時下の学校教育について

★パースペクティブス部門選出作品
2 . Ernesto Martínez Bucio『The Devil Smokes (And Saves the Burnt Matches in the Same Box)』メキシコ、子供だけの家に悪魔がやって来る
10 . Tanushre Das&Saumyananda Sahi『Shadowbox』インド、PTSDの夫を支える家族たち
13 . Arnaud Dufeys&Charlotte Devillers『We Believe You』ベルギー、暴力夫に立ち向かう日
14 . Liryc Dela Cruz『Where the Night Stands Still』豪邸を相続した姉と再会した弟妹たち

Wen Qi のポートレイトがカッコよかったので

いいなと思ったら応援しよう!

KnightsofOdessa
よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!

この記事が参加している募集