『弱いのか、強いのか』(ショートショート#7)
一度、精神的に病んだことがある。
今、考えれば、高校生の頃から、
30歳前まで、おかしかった。
人間不信から始まり、
自分は生きていても意味がないと思い、
躁鬱病になった。
それ以来だ。
人のことを本当に信じれないし、
人の思いやりをきちんと受け止められない。
そんな自分になってしまった。
◆
そのため、心が動かなくなった。
それが、私の対処法だからだ。
そして、何があったとしても、
心を動かさない、動揺しないことが、
強い人間だと思い、過ごしている。
ただ、それに疑問を持つ出来事が起きた。
それが会社のなかでの人事評価。
普段の仕事で褒められることはない。
とがめられることもないのだが・・・
それが当たり前だと思っていた。
もちろん、ちょっとしたことで、
感謝されることはあるにしても、
私は、心を動かさない。
良いことも、悪いことも、
心を動かさないことが、強い人間の証だと思っている。
それがどうだろうか。
人事評価で上司にいろいろと普段の業務に対して、
褒めてもらった。
もちろん、私は自分の心を動かさない。
「ありがとうございます」とは口にするものの、
心は動かさない。
ただ、心のどこかに、
うれしいという気持ちが芽生えていることに気づいた。
◆
心を病んだ20代。
そこから、10年が経過した。
少し変わってきたのかもしれない。
ただ、まだ心は動かさない。
動くことが怖いのだ。
動くことで、また躁鬱になるかもしれないと。
この呪縛は、しばらくは解けないだろう。
そして、心を動かさないのが、
強い人間だと思っているのだが、
もしかすると、心を動かすことに、
柔軟に対応できる人こそが、
本当に強い人間なのではないか、と
思うようにもなっていた。