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おにぎりと初心者マーク

「この年になって免許取ったってすごいでしょ⁉」

仕事の師匠であり東京の母でもある先生が聞いてきた。

「まあ、先生は常に何かに挑戦してますからね。それだけでもいつもすごいと思いますよ。ただ、怖いですよね、さすがに、、、」

俺は、免許を取ったばかりだという先生のドライブに付き合わされていた。

環状線を大型トラックが勢いよく先生の車を追い越して行く。

県を跨ぎ少し行ったところにおいしそうなご飯屋さんがあるらしく、運転の練習がてらついてきてくれとのラインがあったのは今朝の事だ。

ちょうど暇を持て余していたこともあり、良いですよと即答した。

が、それは間違った返答だったようだ。

これほど不安な運転は今まで経験にない。

30分ほどしたころ、少し休憩しようかと先生が言った。

慣れない運転でさすがに気疲れしたのだろうか。

「この辺においしおにぎり屋さんがあった気がするのよ。ちょっと寄っていきましょう?」

これからご飯を食べに行くというのになぜおにぎりなんだろうか?

親世代の考えは本当に理解に苦しむ。

「ここね、本当においしいのよ~」

先生はぎこちなく路肩に車を停めた。

[おにぎりスズメ] と書かれた暖簾の下、ガラスのショーケースに数多のおにぎりが並べられていた。

そのショーケースから少し顔を覗かせていたのは先生よりも確実に10歳は上であろう老婆だった。

「このおばあちゃんが作ってるんだけどね!スッゴク美味しいんだから!何個か選んできて良いよ」

先生のその自信に溢れた笑顔とは裏腹に、美味しいのかもしれないがこの人が握ったのかと思ってしまうと苦手意識が生まれてしまった。

とりあえず、どんなのがあるのかと覗きに行ってみた。

すると老婆が「たくさんあるから悩むねな? 全部一口ずつ味見してみると良いねな」

そう言いながら陳列されているおにぎりを一つまみして渡してきた。

「はい、あーんして。これはシャケね。どうな?おいしいねな?」

無理やり口の中に押し込まれるおにぎりに咽ていると「これは昆布ねな。これはイクラねな。これはツナ、、、」

とめどなく口へとおにぎりを運んできた。

苦しい、、、

もう無理、、、、、、

、、、、、、、、、、、、




あぁ、そうか。
お腹空いてたのかな?

夢で目が覚めた暖かく感じた朝。


以上!






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