行列のできないパン屋さん

「あのパン屋さんホントいつ行っても売り切れで閉店しちゃってて残念だわぁ」
時々通う喫茶店で、お茶会をしているママさんたちの会話が聞こえてきた。
確かに近所にあるパン屋で、開店して間もなく売り切れになり買うことが出来ないという噂は聞いたことがある。
ママさんたちに話によると、朝並ぼうかと思ったが、店の前に[近隣迷惑を避けるため開店前待ちはご遠慮願います] という張り紙があったらしい。
元々作っている量が少ないのか、噂通り本当に人気があるのかはわからないが調べてみる価値はありそうだと思った。

ある夜、コンビニにへ行こうと少し遠回りして例のパン屋の前を通ったら2，3人のスーツ姿の男性がシャッターを開けて入っていくところを目撃した。

とっさに声をかけてみたが、男性たちは人差し指を唇に当ててシーというジェスチャーをした後手招きをして招いてくれた。

パン屋の中に入ると一人の男がこう言った。

「我々はね、趣味でパンを作っていてお互いに味の交換会をしあっているんですよ。今日の味はどうだこうだってね。今はたたんでしまったこの跡地を借りてこうして夜な夜なお互いのパンと発表しあってるんだよ。なんだかわからないが変な噂が立ってるみたいでね、我々もそのうち気が向いたら販売でもしようかなんて話はしているんだよ。ははは」

その翌日からも、パン屋が開いているところを見たことはない。