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初回は「巾木(はばき)」です。

床と壁の接続部分にあるモノですね。(トップ写真の左側壁下端の茶色の部分です。)みなさんの住宅にもだいたいあると思います。1番の役割として、住宅では掃除機の当たる衝撃から壁を守っています。壁にはクロスやペンキが塗ってあることが多いですが、そこに直接掃除機があたると、そのからクロスやペンキが剥がれてしまうため、日常使いにおいては、その当たる部分を守ってあげたほうがいいんです。クロスやペンキもその特性上、端部から剥がれていくんですよね。

また、壁と床を施行する際にも、実はあったほうがいいんです。これはモノとモノが接合する部分を突き付けて納める場合、1mmの誤差でも、歪みでも、その誤差が目立ってしまうため、隠してしまうという役目です。又わずか巾木の幅程度ですが、壁下端と床仕上げ材の端部に隙間(クリアランス)が生まれるため、調整がしやすくなる、つまり早く綺麗に仕上がる、つまりコスト的にもGood、といういいことづくめだったんです。1mm誤差は何とかならないかと聞かれたら何とかはなるんですが、そのためには職人さんに高い技術が求められたり、他の方法(実は巾木を見せない調整方法もありますが、それはまた今度)で調整が発生することが多く、つまりお金がかかってしまうことが通常です。巾木を設置する事で、それらの調整から解放されて端部(壁と床の接合部)を綺麗に見せることができます。施工的には海外なんかで施行技術が低い場合は、これを定規代わりにして、直線や水平を出す基準にしたりもしています。日本では大工さんの墨出し技術が素晴らしいので、このような役割は必要ないですが、役割はその建物が建つ地域によるんですね。

上述のように壁と床の仕上げ取り合い部には隙間があることがわかりました。その隙間をさらに有効活用するために、配線やコンセントを仕込んだりする事もあります。ここまでの調整は美術館クラスですね。一般的な住宅の壁面内部は配線が可能ですが、公共建築やブリック造では防火区画壁や止水ライン(雨を止めるための防御ラインをそう呼んでいます。)であるために壁面内部に配線できないことがあります。その時に巾木裏のスペースが利用されます。又、意匠的にもコンセントカバーすら無くしたい時に採用されたりします。実は巾木の裏で詳細な調整やせめぎあいが行われていたんですね。(これは実は壁と天井の接合部材に「廻り縁」というものがありますが、海外ではこの配線カバーが発展して、廻り縁がデザインされるようになったような形跡もあるようですが、そこから流用したと睨んでいます。)

設計者としてはインテリアデザインとして、室内のグレード感印象に大きく影響します。日本だと特に天井高が低めで2150mmとか手が届くくらいの天井高の場合がよくありますが、この場合巾木の高さで印象が変わってきます。例えば、巾木高さを100mm(普及品サイズ)として、コストを抑えつつ安定感のある印象にするか、この高さを45mm、60mmとかに下げてシャープな印象にしたりもできます。色を変えることで、目立たなくすることも、アクセントにもできます。巾木の印象操作の大きなものとして、「入巾木(いりはばき)」「出巾木(ではばき)」があります。壁面より出ているか、凹んでいるかの違いです。壁面を印象的に見せたいときには入巾木ですが、この場合壁に先立って入巾木を設置するため、事前により詳細な調整が必要です。「入巾木」を見つけたら「こだわってますね。」と言ってあげましょう。

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巾木の素材も、PVC、木、石、タイルなど様々なものがあります。店舗などでは石を出巾木で高さを大きくして、(つまり目立たせて)インテリアのグレードアップを図ったりしています。この場合、巾木だけでなくトータルコーディネートの一部であることはもちろんですが。。。

巾木自体に目地を入れたり、意匠を施すことも可能です。出巾木の上面に埃がたまることを防ぐために角を落としたり、目地や段差を付けることで、印象はガラッと変わります。

一方で、実は上記のような役割を踏まえていれば、巾木なしでスッキリ見せることも可能です。床面から直に壁面がスッと立ち上がるのはやはり綺麗に見えます。最初に挙げた掃除機対応ですが、壁面に剥がれるものがなく、当たっても傷にならない、又はなりにくい素材を壁面材料に選定することで対応できます。公共建築などでは壁面に割と硬い素材が使われていることが多く、あまり気にしなくても良いですよね。ただし、台車や足で蹴ってしまうなどの汚れや傷がリスクとしてありますが、この辺り、施主・利用者の意見や、デザイン的にどう見せるかなどの総合判断もあるので、設計者の手腕が試されます。

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使い方に踏み込んで(施主・利用者と協議して)、掃除機から守るよりもデザイン性を重視したい意向がある場合は無くしたりします。その場合クロスやペンキの塗り替えも想定されますね。関係者同意の上ならこの方が納得感があることもあるので、ケースバイケースです。

巾木の役目まとめ

①日常使いにおける掃除機などから壁面を保護

②施工性向上のための、床・壁の接合部隠し

③施工上の定規として

④施工性と仕上がり品質向上のための調整部材

⑤インテリアにおける印象操作・調整

⑥インテリアにおけるグレード感の調整

⑦配線スペース利用

⑧上記の役割に調整がつけば、なくす事もできる。

#建築 #おさまり #モノ #巾木



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