
クリエイティビティを高めるカラーとは?
色が仕事のパフォーマンスに与える影響
色が仕事のパフォーマンスにどんな影響を与えるかを意識することは、あまりないのではないでしょうか。仕事に没頭しているとそもそも色が目に入らない、いつも見ているオフィスの壁の色が何色かすぐに思い出せない、という人も多いかもしれません。けれども、色は確実に私たちの仕事のパフォーマンスに、無意識のうちに影響を与えているようです。
色彩の専門家によると、以下のようなことが明らかになっています。
【赤】警戒心、注意力を喚起し、人間の感情的興奮や刺激をもたらす。赤は色の中で最も長い波長を持ち、交感神経に刺激を与え体温・血圧・脈をあげる。
【青】爽快感、冷静を与える。鎮静作用があり、精神的に落ち着かせる作用がある。体温の低下、痛みの暖和などの作用もある。
【緑】情緒の安定、安心感の増加。身体を癒す。筋肉の緊張をほぐし、リラックスさせてくれる。また、筋肉や骨その他組織の細胞を作る力を促進したり、暖和効果があるので血圧を下げる。
では、このnoteの大きなテーマである日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮するためには、何色が良いのでしょうか。
リトルCを発揮するには「ポジティブ感情」×「高い活性度」が大事であると、以前に書きましたが(詳しくは、「クリエイティビティと気分の深い関係」をご覧ください)、このために最適なカラーは果たして、赤なのか、青なのか、緑なのか、あるいは、それ以外の色なのか。これについての興味深い研究を紹介する前に、そもそも、過緊張の状態では、リトルCは期待できません。
そこで、まずは、気持ちをリラックスさせ、安らぎを得るのに良いカラーは何色なのかに関する面白い研究結果を紹介します。

安らぎの黄金比率とは?
緑の自然が心身の健康に良いことは、多くの研究で報告されていますが、青い自然、つまり、水を含む自然の景色の効果はあまり研究されていませんでした。そこで、英プリマス大学心理学部のマシュー・ホワイト博士らは、海や川など「水」を含む景色と、木々や森など「緑」を含む景色、そして、人工的な建築物を含む景色を組み合わせた120枚の画像を使って、人はどのパターンの景色を最も好み、そして、最も気持ちが休まるのかを調査しました。
その結果、とても興味深いことがわかりました。
下記の画像を見比べてください。
A:水の景色(青)に対して、緑の景色(緑)が3分の1ほど入っている景色
B:全て水の景色(青)
C:全て緑の景色(緑)

3つの画像のうち、どれが最も気持ちが休まるでしょうか?
分析の結果、画像A、つまり、水の景色が3分の2、緑の景色が3分の1の割合(青:緑=2:1)が最も好まれ、気持ちが休まることがわかりました。
詳しく比較すると、画像C(全て緑の景色)よりも、画像B(全て水の景色)の方が、気持ちが休まること、そして、画像B(全て水の景色)よりも、画像A(水の景色に対して、緑の景色が3分の1ほど入っている景色)の方が、気持ちが休まることがわかりました。
つまり、画像A > 画像B > 画像Cの順に気持ちが休まるということですね。
さらに、興味深いことに、人工的な建築物が3分の2、水が3分の1の景色と、全て緑の景色は同等の評価だったのです。本来、人工的な建築物を含む景色は、緑の景色よりも好ましく思われない傾向があるのですが、人工的な建築物の景色に、水の景色が加わることで、人の評価が大きく向上し、緑の景色と同程度に気持ちも休まることがわかったのです。
この研究から、水の色、つまり、青の安らぎ効果がとても重要であることが示唆されました。仕事で過緊張の状態になっている時は、青:緑=2:1の自然画像を見て、安らぎを得られるかどうか試してみましょう。
では、過緊張な状態を脱することができたとして、クリエイティビティを高めるには、どのカラーが効果的なのでしょうか。

赤 or 青
クリエイティビティを高めるカラーについて、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学ビジネススクールのラヴィ・メータ博士らは、興味深い実験を行い、その論文は、世界的な権威のある学術誌『Science』に掲載されました。
ラヴィ・メータ博士らは、5つの実験を実施しましたが、その中の実験2では、208人の参加者に、赤または青を背景色としたスクリーン上で、以下の2つの課題に取り組んでもらいました。
【課題① 詳細な注意力を調べる課題】
2分間、36個の単語を見て、20分後に覚えている単語を回答する課題
【課題② クリエイティビティを調べる課題】
「レンガ」の通常とは異なる使い方をできるだけ挙げる課題
結果は、課題①では、「赤」背景のグループの方が、約29%多く単語を記憶していることがわかりました。一方、課題②では、「青」背景のグループの方が、独自性のスコアが約17%高く、独自性のあるアイデアを約2倍多く出しました。(出たアイデア数の総数は両群で有意差なし)
この実験から、「赤」は注意力・記憶力を高めるのに適したカラーであること、「青」はクリエイティビティを高めるのに適したカラーであることが示唆されました。
他にもこれを確かめる実験が行われています。その実験では、69人の参加者が、上記の実験同様、赤または青を背景色としたスクリーン上で、12のアナグラム(単語の並べ替えのパズル)に取り組みました。
参加者は2つのグループに分けられ、1つのグループはアナグラムで完成させる単語が、「失敗」「危険」「事故」のような回避動機に関するもので、もう1つのグループは、「挑戦」「成功」「機会」のような接近動機に関するものでした。
さて、結果はどうなったでしょうか?
「赤」背景のグループは、回避動機の単語に関して、「青」背景のグループよりも約49%早く完成させました。一方、「青」背景のグループは、接近動機の単語に関して、「赤」背景のグループよりも約41%早く完成させました。
この実験から、赤は回避動機の活性化を通じて、注意力を高めるのに効果的で、青は接近動機の活性化を通じて、クリエイティビティを高めるのに効果的であることが示唆されました。
つまり、「青」は何かをやってみようというポジティブな動機を高めることで、新しいアイデアを生み出すクリエイティビティを高めてくれる可能性があることが示されたのです。
注意力を要する仕事では、パソコンの背景を赤にし、クリエイティビティを発揮したい仕事では、パソコンの背景を青にするといった変化をつけることは有効かもしれませんね。
参考文献:
・https://blog.btrax.com/jp/color/
・White, M., Smith, A., Humphryes, K., Pahl, S., Snelling, D., & Depledge, M. (2010). Blue space: The importance of water for preference, affect, and restorativeness ratings of natural and built scenes. Journal of environmental psychology, 30(4), 482-493.
・Mehta, R., & Zhu, R. (2009). Blue or red? Exploring the effect of color on cognitive task performances. Science, 323(5918), 1226-1229.