ユーモアが死亡リスクを下げる!?
ユーモアには様々な効用があることがわかっていますが、最も重要性の高い効用が、死亡リスクの低減です。ユーモアによって笑うことで、身体に悪影響を及ぼす物質を攻撃してくれるリンパ球の一種の「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」の働きが活発になり、副交感神経が優位な状態になります。
山形大学医学部の研究では、週1回以上、声に出して笑う人に対して、月1回未満の人は、死亡リスクが約2倍であることがわかりました。また、声に出して笑う回数が多い人は、喫煙率が低く、アルコール摂取量が少なく、運動の機会が多いことも明らかになりました。つまり、笑うことは健康行動にも関連する可能性があるようです。(詳しくは、「「笑い」でポジティブ感情を増やし、パフォーマンスを上げる」をご覧ください)
他にも、他人のユーモアに「気づく」ことの重要性を示す研究もあります。
ノルウェー科学技術大学のソルフリッド・ロムンスタッド博士らは、ノルウェーの成人53,556人を対象に、日常生活における、「ユーモアの気づきやすさ」という指標を測定し、その指標と死亡リスクの関係を調査しました。
最初の調査(1995-1997年)では、参加者がユーモアにどれくらい気づきやすいか(これを、ユーモアの認知的要素といいます)を測定しました。その後、15年間、追跡調査が行われ、その間に参加者が死亡した場合は、死亡原因を特定しました。
長い年月をかけて取得した貴重なデータを分析した結果、ユーモアに気づきやすい(認知的要素のスコアが高い)女性は、全死亡要因による死亡リスクが、認知的要素のスコアが低い女性よりも、約50%低いことがわかりました。これは、年齢、BMI、血圧、教育、運動、喫煙、孤独、各種疾病などの影響を除いた上での結果です。一方、男性の場合は、有意差がありませんでした。
また、死亡要因別でみると、ユーモアに気づきやすい女性は、心疾患による死亡リスクが約70%、感染症による死亡リスクが約85%低いことがわかりました。また、男性も感染症による死亡リスクが約75%低いことがわかりました。
つまり、普段から誰かが発したユーモアに積極的に気づいて、それを笑えるくらいの余裕を持った生活をすることで、死亡リスクが低下する可能性があるということですね。
別の研究によると、ストレスに晒された時に、ユーモアは免疫力の低下を防ぎ、ストレスに対する緩衝材の役割を果たすこともわかっています。
ユーモアはクリエイティビティを高める!?
次に、ユーモアがクリエイティビティを高めるという研究を見ていきたいと思います。
クリエイティビティを測定する古典的なテストとして、「ドゥンカーのロウソク問題」という有名なテストがあります。内容はとてもシンプルで、下図のように、テーブルの上に置かれた物(ロウソク、箱に入った画びょう、マッチ)だけを使って、「ロウがテーブルに垂れ落ちないように、ロウソクを壁にくっつけるには、どうすればよいか?」を考える問題です。
正解は、下図のように、箱から画びょうを取り出し、その画びょうを使って箱の片側を壁にとめ、その箱を台として、ロウソクをそこに置くということです。これによって、テーブルにロウが垂れるのを防ぐことができます。
言われてみれば簡単に思えるかもしれませんが、正解にたどり着くには、箱の使い方がポイントです。「箱は画びょうを入れる入れ物だ」という考え方に縛られてしまう(これを、機能的固着といいます)と、正解は見えてきません。画びょうを箱から出して、箱をロウソクの台にするという発想の転換が必要になります。
アメリカの心理学者アリス・M・アイゼン博士らは、この「ドゥンカーのロウソク問題」を使って面白い実験をしました。1987年の実験なので、だいぶ昔ではありますが、その結論は現在も支持されています。
その実験では、65人の大学生に、5分間の動画を観てもらった後に、「ドゥンカーのロウソク問題」に取り組んでもらいました。5分間の動画には、ポジティブ感情を誘発しそうなコメディ映画のワンシーンと、感情の変化とは無関係(中立)な映画のワンシーンが使われました。
さて、分析の結果ですが、コメディ映画を観てポジティブな感情になったグループは、75%(12人中9人)が「ドゥンカーのロウソク問題」に正解したのに対し、中立の動画を観たグループは、20%(15人中3人)しか正解しませんでした。
「ドゥンカーのロウソク問題」を遠隔連想テスト(RAT)という別のテストに変えたり、ポジティブ感情の誘発手段をコメディ映画ではなく、小さなギフト(キャンディ棒)のプレゼントに変えたりしても、同じ結論が得られました。
ユーモアによって喚起されるポジティブ感情は、新しい方法で素材を組み合わせたり、異なる刺激間の関連性を見出したりする傾向を高め、解釈の幅を広げてくれるため、クリエイティビティが高まると考えられます。
ユーモアは仕事の地位を高める!?
最後に、ユーモアが仕事の地位を高める場合があるという研究を見ていきたいと思います。
X(旧Twitter)の前CEOディック・コストロ氏は、ビジネスでユーモアをうまく使うことで有名ですが、CEOのような高い地位にあるビジネスマンにとってユーモアは諸刃の剣の可能性があります。
アメリカの名門ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクールのT・ブラッドフォード・ビターリー博士と、ハーバード大学ビジネススクールのアリソン・ウッド・ブルックス博士らは、8つの実験によって、仕事におけるユーモアの効用とマイナスの影響について検証を行いました。実験にあたって、以下のような仮説(一部抜粋)を立てました。
① ユーモアを使用すると、周りから自信があると思われる
② ユーモアを使用すると、周りから有能だと思われる
③ ユーモアを使用すると、地位が向上する
実験の結果、ユーモアを使用して、それが成功する(笑いをとる)と、周りから自信があると思われる度合いが10~20%増加し、周りから有能だと思われる度合いが5~10%増加することがわかりました。また、周りからのその人の地位の高さに関する評価も15~35%増加することがわかりました。これは、ユーモアの内容を変えた複数の実験の結果から明らかになったものです。
さらに、真面目なコメントだけをした場合と比較して、ユーモアの使用に成功した場合は、自信の評価が約30%、有能の評価が約11%、地位の評価が約16%程度上がることがわかりました。
一方、ユーモアの使用に失敗する(受けない)と、真面目なコメントだけをした場合と比較して、地位の評価が約7%程度低下することもわかりました。ただ、興味深いことに、ユーモアの使用に失敗しても、有能の評価はさほど低下せず、自信の評価に至っては、約17%も上がることがわかりました。
まとめると、ユーモアの使用に成功すると、周りからの地位や自信、有能さの評価を高めることができますが、ユーモアの使用に失敗すると、周りからの地位の評価は下がります。ただ、ユーモアの成否にかかわらず、ユーモアを発することで、「自信のある人」と評価されるメリットはあるようです。もちろん、不適切な場面でのユーモアは慎むことを忘れないようにしましょう。
以上をまとめると、ユーモアには、死亡リスクを下げたり、クリエイティビティを向上させたり、仕事上の地位を高めたりする効果があるようです。そして、他人のユーモアに気づく余裕を持つだけでも、死亡リスクを下げる効果があるようです。
忙しい日々を送っていると、ついユーモアに無頓着になりがちですが、この些細な行動を意識するだけで、これだけの効用が得られるというのは、とてもお得なことですね。
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