睡眠とクリエイティビティ、そして、年収との関係
レム睡眠とクリエイティビティの関係
このnoteで以前に書きましたが、睡眠とクリエイティビティには、とても深い関係があります。(詳しくは、「レム睡眠がクリエイティビティを高める」をご覧ください)
アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校心理学部のデニス・J・カイ博士らは、90分程度のパワーナップ(昼寝)を実施すると、クリエイティビティにどのような影響があるか、とても興味深い実験を行いました。
実験では、睡眠脳波を測定し、パワーナップ(昼寝)中の深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)の出現状況を調査しました。
その結果、深いノンレム睡眠の後に、浅いレム睡眠を経験したグループは、深いノンレム睡眠だけを経験したグループよりも、クリエイティビティのスコア(遠隔連想テスト)が高まることがわかりました。これは、浅いレム睡眠中に、脳内で関連性のない情報同士が統合されやすくなり、それが連想力を高め、クリエイティビティの向上につながったと考えられます。
この研究からも、クリエイティビティを発揮する上で、睡眠の質はとても大事であることが窺えます。また、浅いレム睡眠中に見る夢の中で、クリエイティブなアイデアが浮かぶことがよくあります。
『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』の著者、森岡毅さんは、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの経営再建を請け負い、見事に成功させた優れたマーケターですが、この著書の中で、夢の中で画期的なアイデアを思いつくという場面が出てきます。
夢の中で、つまり、レム睡眠中に、後ろ向きに走るジェットコースターのアイデアが生まれ、実際に、「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド〜バックドロップ〜」として、実現したのです。
そこに至るまでには、思い悩み、パーク内をひたすら散策してアイデアを考える日々があったようですが、その努力が、夢の中にアイデアが現れるという形で結実したのです。
睡眠が「気づき」を与えてくれる
レム睡眠中の夢がアイデアを生むという以外にも、睡眠がクリエイティビティに与える良い影響について、様々なことが明らかになってきています。世界的学術誌『Nature』で発表されたドイツのルーベック大学神経内分泌学科ウルリッヒ・ワーグナー博士らの研究では、睡眠をしっかり取ると、課題解決に必要な「気づき」を得られる割合が高くなることがわかりました。
この研究では、66人の成人を対象に、数字の並び(数列)を予測する課題をやってもらいました。課題を3セットやってもらったところで、中断してもらい、参加者を以下の3グループに分類しました。
グループ1:夜8時間(23:00-7:00)の睡眠を取る
グループ2:夜8時間(23:00-7:00)ずっと起きている
グループ3:昼8時間(11:00-19:00)ずっと起きている
そして、8時間経過した後、同じ課題をさらに10セットやってもらい、どのグループが最も早く解けるかを比較しました。実は、この数列には「隠れたルール」があり、それに気づけば、あっという間にできるようになっていました。
分析の結果、グループ1(夜8時間の睡眠を取ったグループ)は、22人中13人、つまり、59.1%が「隠れたルール」に気づき、課題を早く終えることができました。一方、他の2グループは、いずれも、22人中5人、つまり、22.7%しかルールに気づきませんでした。
ちなみに、睡眠前にこの課題を全くやらずに、8時間の睡眠後に初めてこの課題をやったグループは、「隠れたルール」を発見できた割合が20%程度でした。つまり、睡眠前に課題に取り掛かった上で、一旦その課題から離れたこと(この期間を「インキュベーション期間」といいます)で、脳内で海馬を中心とする連想記憶が活性化され、「隠れたルール」に気づく割合が大幅に向上したと考えられます。
このように、睡眠はクリエイティブなアイデアを生むためにとても重要なインキュベーション期間の役割を果たし、それによって「気づき」が向上する可能性があることがわかりました。
睡眠時間と収入の関係
睡眠がクリエイティビティに与える影響について見てきましたが、それが最終的には年収のアップにもつながるという研究があるので紹介します。
アメリカ人エコノミストのマシュー・ギブソン氏とジェフリー・シュレーダー氏は、アメリカ人の労働者を対象に、睡眠時間と収入の関係を調査しました。この調査では、アメリカの同じタイムゾーンにある地域の中で、教育レベルやベースの賃金レベル、その他、収入に影響を与える条件(居住地の平均収入、住宅価格、生活コストなど)を調整した上で、睡眠時間の差がどれだけ収入の差に影響を与えているかを分析しました。
その結果、平均睡眠時間が多いほど、収入が多くなること、より具体的には、1時間の睡眠の差が、4~5%の収入の差を生んでいることが分かったのです。この4~5%という差は少なく感じるかもしれませんが、定期昇給が年2%程度だとすると、とても大きな差であることがわかると思います。
以上をまとめると、睡眠は、夢を通じてクリエイティブなアイデアを直接生み出す機会を与えてくれたり、「インキュベーション期間」の役割を果たすことで、アイデアの発想に必要な「気づき」を与えてくれたりする可能性があることがわかりました。そして、なんと年収の差を説明する要因の1つにもなり得ることがわかりました。健康面での睡眠の重要性は論を待ちませんが、仕事のパフォーマンスや年収といった面まで、睡眠が影響力を持っている可能性がありますので、その重要性は計り知れないですね。