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【第一話】児童相談所に、子供を一時保護してもらった日の話

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児童相談所に、子供を一時保護してもらった話

1月某日、児童相談所に子供を預けた。

事の発端は夫婦喧嘩。
その頃、妻の精神状態はどんどん不安定になってきており、それに疲れてしまった僕との間で数えきれないくらい衝突が起きていた。

その喧嘩の中で、妻が警察に通報。
事情を聞かれるために2人とも警察署に連れていかれた。

この時、ひそかに僕は考えていた。
精神的にどんどん不安定になっていく妻に治療を受けさせなくては」「もはや妻を精神病院に入院させるしかないかも…」と。

入院については事前に警察に相談していた。
警察だけでなく、子供家庭支援センターや児童相談所、市の保険師、保健所、様々な機関に相談して、妻のことを何とかしようとしていた。

警察から「長男を児相に預けろ」と言われる

警察署の取調室で警察から言われた。
奥さんを何とかするためにも、長男を児相に保護してもらった方がいい」「育児もしながら奥さんに治療を受けさせるのは無理だよ」「うちのトップは児相のトップと仲がいい、今日だったら特別に一時保護してもらえるよ」「奥さんは養育権を放棄したから、あなたが決断しなさい

若い刑事、中年の刑事、年取った刑事、児相のトップと仲が良いというえらい人(?)が代わる代わる出てきて上記のことを延々と言われ続けた。

僕は、子供を児相に預けるのは絶対嫌だった。
警察から「児相に預けろ」と言われている長男は、2歳になったばかり。離れ離れになれば、長男はつらい思いをする。いつもニコニコして歌が大好き、僕も妻も彼のことが大好きだ。離れ離れなんて絶対に嫌だ。

しかし、警察が求めている答えは『YES』のみ。
途中、1人の刑事さんから「奥さん何とかしたいんだったら、アレコレ言わないで欲しい。こっちも人間だから気分悪くすると、良くない結果になるよ!」と脅しまがいのことすら言われた。

警察の『説得』が始まって数時間が経過。
警察としても通報を繰り返す妻を何とかしたいと考えているが、万が一強制入院(医療保護入院や措置入院)に協力するなら、僕に『長男を児相に一時保護させる』という生贄を求めているのだった。

精神的に不安定だが、妻に病識はない。
すでに通院やカウンセリングでどうにかなるレベルでないことは素人目に見ても明らかだったが、妻は「私は病気じゃない、入院なんて絶対しない」と言い続けていた。

通報時、刃物を振り回して暴れ続けるといった状態なら、警察も措置入院などで動ける。

しかし、警察が到着した頃には、妻は落ち着いてしまっているため、対応に苦慮している背景があった。

長男を預ければ、ここの家は、長男を児相に預けてまで助けを求めているという図式が出来上がり、警察としても『特例対応』の稟議が通りやすくなるのだろう。

警察のやり方は汚い。
そう思ったが、同時に説得力を感じている僕もいた。

そして僕は残酷な選択をした

妻の状態を何とかしないと、我が家は破綻するだろう。長男は預けたくない。しかし、預けないと今の状況をどうにかできないと悟った。

だから僕は長男にとって残酷すぎる選択をした。警察に対して「わかりました、長男を児相に預けます」と伝えたのだ。

その後、刑事さんと長男を保育園に迎えに行った。
何も知らない長男。いつも通り笑顔で「パパー!!」と抱き着いてきた。

ごめんね。僕は君にとって残酷な選択をしたんだ。ごめん。

長男の荷物を家に置き、一緒に警察署に行った。
パトカーをみて「パトローカー、あるねー」と無邪気にはしゃいでいる。本当にごめん。

別の取調室から妻の叫び声が聞こえた。「私は預けるのに同意していない!」と。刑事さんの話だと、妻は子供たちに関する養育権を放棄する、夫に権限を委ねる、という念書を書かされたらしい。

児童相談所に一時保護してもらうには、両親の同意が必要。警察は妻から同意をとれないのをわかっていて、半ば無理やり念書を書かせたのだ。しょうがないとは言え、妻にも残酷な仕打ちをしてしまった。

長男と別れるまでの時間、コンビニに一緒に行った

長男に夕飯を食べさせる必要があった。
警察署の中には、食べ物やお菓子を売っている自販機もあったが、運悪く全部売り切れ。

お菓子は持っていたが、ごはん代わり…というにはビミョーだった。

そのため「長男とコンビニ行きたいです」と刑事さんに言った。刑事さんも一瞬戸惑ったが、すぐに了承してくれた。

普通は児相に預ける前の子供を連れていけない。
一度警察署で保護した』子供を親が連れて外に出るようなことは、虐待などの恐れもあるので、あってはならないのだ。

しかし、うちは虐待しているワケではない。
むしろこれ以上ないくらい可愛がっており、妻のことがあって喧嘩がなければ、児相に保護されるような要素はまったくと言っていいほどないのだ。

と言ってもこれは自己弁護でしかない。
現代は、子供の前で喧嘩をするのは立派な虐待行為。その認識のない親は多いと思うが、子供の前で夫婦喧嘩をして通報した・された場合は、虐待案件として子供家庭支援センターや児童相談所が介入してくる。

実際にウチも息子達の前で声を荒げたこともあり、世の中のルールからすると、虐待をしている家庭なのだ。

許可を得られたので、長男と警察署から200mくらい離れたコンビニに向かった。楽しそうな長男。この道が20kmでも200kmでもずっと続いてほしかった。

コンビニではおにぎりを購入。
なるべくゆっくり警察署に戻った。警察署が近づくにつれ、胸のあたりがヒンヤリするような、何とも嫌な感覚がした。

警察署のロビーにて、事情を知らない女性刑事さんから「あらかわいい、今日はどうしたんですか?」と笑顔で話しかけられた。僕が「色々あって、これから児相に預かってもらうんです。」と答えると刑事さんは笑顔のまま固まっていた。

長男との別れ、ダマすように置いてきた

取調室で彼の大好きな歌のYouTubeを見ながら、一緒におにぎりを食べた。

長男は無邪気に歌ってる。
彼の歌もしばらく聞けないのか、そう思うと迷いが出た。

今からでも「やっぱ預けるのやめますわ」と言おうか。しかし、妻の状態を考えるとその選択は賢明ではないこともわかっていた。

しばらく経ったころ、若い刑事さんが「●●君、お兄さんとピーポ君のシール貼って遊ぼう」とやってきた。

これは「長男がシールに気を取られている間に帰れ」という警察からの合図。同時に年取った刑事にひっそり呼ばれた。「あんまりいると、もっと辛くなるから」帰るよう促された。

長男と離れ離れになるという残酷な選択、しばらく会えなくなるという現実、ダマすように置いてきた罪悪感など複雑な思いで、号泣しながら警察署の階段を下りた。

本当にごめん。ごめん。ごめん。
だけど、お母さんと必ず一緒に迎えにいくからね。

これが、子供を児童相談所に一時保護してもらった日の話だ。

つづく。

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