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星屑テレパスを観てモデルロケットを始めたいあなたへ

はじめに

『星屑テレパス(星テレ)』のTVアニメが10月からいよいよ放送されます。アニメ関連の発表が増えてきたり、原作の第4巻が発売されたりと、盛り上がっている今日このごろです。

PVでも言及されているように、作中で主人公の小ノ星海果たちはロケット作りで宇宙を目指すことになります。そのために登場するのが、火薬を使って実際に飛行する模型ロケットであるモデルロケットです。
このモデルロケットは自分で作ることもできて、先日は作中のロケット「ウルトラハイパワードリィーム号」をそっくりに再現して打ち上げた方が話題となっていました。

『ゆるキャン△』を読んでキャンプを始め、『ぼっち・ざ・ろっく!』を読んでギターを始めてきた歴戦のオタクの皆さん(?)なら、モデルロケットという趣味にもきっと興味が湧くはずです。
ただ、楽器やキャンプなどに比べるとモデルロケットを趣味にしている人口はどうしても少なく、インターネット上で見つかる情報は多くありません。さらに、モデルロケットは火薬を使用して数十メートル、数百メートルといった高度に上昇するため、安全を確保するためのライセンス取得や、広い打ち上げ場所の確保などの準備が必要です。

そこで、本記事では、モデルロケットを実際に始めてみたい!という方のために、モデルロケット活動の第一歩である従事者ライセンス取得について解説します。

この記事は、東京大学きらら同好会の同人誌『Micare vol. 1』に寄稿した記事「星屑テレパスからのモデルロケット入門」を抜粋・加筆したものです。


モデルロケットについて知る

まずは、モデルロケットについて知りたい方向けの情報源をまとめます。

日本国内では、特定非営利活動法人 日本モデルロケット協会(JAR)が自主規制やライセンス発行を担当しています。「モデルロケット」を検索してまず出てくるのも、モデルロケット協会の公式サイトです。

日本モデルロケット協会の公式ウェブサイト
https://www.ja-r.net/

このWebサイトにはモデルロケットの基礎やライセンス取得のための情報、大会・イベント情報が掲載されています。10年以上変わっていないデザインのため、残念ながら情報を探しやすいとは言えないのですが、公式の情報源なのでモデルロケットの活動をする上ではこのサイトをよくよく確認することが必須です。
メニューから階層の深いページを見つけにくいという場合は、Google検索のサイト指定検索(例:「ライセンス site:ja-r.net/」)を活用するのもいいと思います。

JARの公式サイトのほかにも、モデルロケット関連の活動をしている個人のブログもいくつか存在します。こういった個人サイトも、様々なモデルロケットの作例を調べるのに便利です。
手前味噌ながら、星テレ第2巻の発売に合わせて執筆した「星屑テレパスで学ぶモデルロケット用語集」に、「モデルロケットとは何か」「打ち上げでは具体的に何をするのか」「大会の競技はどんなものか?」といった基礎知識をまとめています。そちらもぜひお読みください。

書籍のほうがいいという方には、まずはJARによる教本「ロケットを飛ばそう!」をおすすめします。これは第4級ライセンス取得のための教材で、PDFファイルとして無料で公開されています。11ページと短く、モデルロケットの基本や打ち上げ手順の要点が解説されているので、初見の方でも理解しやすいでしょう。

市販のモデルロケット書籍で2023年現在入手しやすいのは、『新版 手作りロケット入門』です。紙の本は品薄で通販サイト等では高騰してしまっているものの、Kindle版(電子書籍)なら定価で購入できます。

内容が2013年のため最新の宇宙開発やソフトウェア事情が反映されていない点も見受けられますが、モデルロケットの基礎を知るには不都合ないはずです。入門と書いてはあるものの、ロケットの飛行原理や設計方法などかなり詳しく解説されるので、物理の計算が苦手意識なくできるほうが読みやすいと思われます。この本は「高度100 kmの宇宙に到達する」ことを目標に掲げており、まず宇宙ロケットの基本や宇宙ロケット開発史を一通り学んでからモデルロケットの話に入るのも面白いポイントです。

モデルロケットライセンスを取得する

モデルロケットを自分で打ち上げてみたくなりましたか?
地域のイベントなどでモデルロケット打ち上げを体験できる企画が実施されることもありますが、そういったイベントがなく独自に打ち上げたいという場合はモデルロケット従事者ライセンスが必要です。

ネットを検索するとライセンスがなくても打ち上げできると主張しているサイトも見つかります。ただ、モデルロケットの打ち上げにあたっては火薬類取締法施行規則で様々なルールが決められており、それらを理解せずにいきなり打ち上げてはいけません。ライセンス取得の過程で、打ち上げの基本や安全のための法令・ルールを習得できるので、まずはライセンスを取りましょう。
また、星テレの登場人物たちも持っているライセンス証を実際にもらえるので、取得すると作品をよりリアルに感じられることでしょう。

第4級従事者ライセンス証。4級である旨や取得年(23)、血液型や氏名住所が記載されている
第4級従事者ライセンス

ライセンスには第4級~第1級+指導者の5種類があります。第4級ライセンスがあればA型からC型までのエンジン(燃料)が使え、小型モデルロケットを打ち上げるには十分です。したがって、本記事では4級取得に絞ってご説明します(筆者も4級までしか取得していません)。4級を取得する方法には、大きく分けて「講習会」と「打ち上げ実績による取得」があります。

講習は、JARなどによる講習を受け、打ち上げ実習を行ってライセンスを取るものです(笑原先生も、きらら9月号で講習会に出ていましたね)。JARの講習会は、埼玉県ふじみ野市上福岡にあるJARの本部で毎月開催されているので、関東近郊にお住まいの方は行きやすいでしょう。

関東以外の方でも、地域や学校に指導講師ライセンス所持者がいれば、講習を受けて4級を取得できます。星屑テレパス作中でも、ロケット研究同好会メンバーは指導講師である雷門瞬から講習を受けるという形でライセンスを取っていました。

講習会会場が近場になく、雷門瞬と知り合いでもない……という方は、打ち上げ実績による取得を目指すことになります。筆者は、初めてライセンスを取った中学生の時には九州在住で講習受講が困難だったので、この方法で4級を取得しました。ざっくり言えば、各種資料を熟読した上で安全な打ち上げを3回行い、郵送で申請することでライセンス取得するというものです。モデルロケットキット・エンジンの購入や打ち上げ場所の確保を全て自力で行う必要はありますが、それらの目処が立っているならご検討ください。

モデルロケット協会主催の第4級ライセンス取得講習会

受講申込

JAR主催の講習会は毎月開催されます。参加するには、事前の受講申込が必要です。毎回の定員は7名と多くないため、参加を検討しているなら早めに動きましょう。

予約方法は、2023年始めごろまではメールまたは電話が用いられていましたが、2023年10月現在はGoogleフォームに変更されています。予約する方は、「協会主催 講習会の予定」ページを熟読の上、「講習会受講仮申込み」→「講習会受講の仮予約」とリンクをたどると空き状況や予約方法を確認できます。

2023年10月1日の時点で、10月は中止、12月は満員となっていました。アニメで話が進み、モデルロケットが出てくる頃にはさらに希望者が増える可能性もあるので、早めに受講を検討した方が良いかもしれません。

講習会の空き状況を示す表。10月は開催中止、11月は残り5名、12月は定員に達したとなっている
2023年10月1日現在の空き状況。https://ja-r.net/

申し込みをすると、メールで2種類の書類が送付されます。記入して、1週間以内にJARに郵送する必要があります。手続きが終わったら、あとは当日の晴天を祈って待つだけです。

講習会当日(午前中)

会場は、日本モデルロケット協会の本部です。JARの施設に入れる機会は現役の従事者であってもそれほど多くはないので、貴重な機会であることは間違いありません。受講の注意にも書いてあるように、昼食は持参し、公共交通機関で来場するのがおすすめです。

「日本モデルロケット協会」と書かれた扉
日本モデルロケット協会の入り口扉

講習会は10時にスタートします。午前中は、教本「モデルロケットを飛ばそう!」を使った座学と、Alpha Ⅲという入門用のモデルロケットを実際に組み立ててみる実習(キットや工具は配布される)が行われます。組み立ては小中学生でもできる簡単なものですが、今後モデルロケットを作る際の基本の手順を練習できるのでしっかり取り組むとよいと思います。

パラシュートを取り出した状態のAlpha Ⅲモデルロケット、モデルロケットのエンジン、ライセンス講習テキスト
組み立てを終えたAlpha Ⅲロケット

組み立てを終えると、昼食休憩があります。外に買いに行くこともできますが、休憩中もJARにある貴重な展示品やビデオを見せていただけるので、軽食を持参しておくのがお勧めです。筆者が参加した回では、2006年にカザフスタン共和国・バイコヌールで開催されたWorld Space Modelling Championship(WSMC)の模様を拝見できました。

JAR本部には、モデルロケットや宇宙ロケットにまつわる品々が展示されています。なかにはとてもここでは詳細を書けないような貴重な物もあるので、自分の目で確かめてみてください。

赤や緑など様々なモデルロケットが展示されている壁
日本モデルロケット協会に展示されている大会用モデルロケット

講習会当日(午後)

第4級取得の条件である、安全な打ち上げ・回収を満たすための実習に出かけます。JARの方の車で荒川河川敷の公園まで向かい、エンジン・イグナイターの取り付け、発射台のセット、カウントダウンから打ち上げまでを自分で行います。

モデルロケットの発射台にロケットが載せられ、エンジンにコードが繋がっている
発射台に取り付けたモデルロケット

モデルロケットの体験イベントなどに行ったことがない方は始めての打ち上げになると思います。星テレの作中での打ち上げを追体験できるというのもありますが、自分自身でカウントダウンしてボタンを押し、ロケットが勢いよく飛んでいくという体験はかなりテンションが上がるはずです。

一方で、座学をしっかり聞いていても、実際に手を動かして打ち上げてみると、ミスをしていたり部品に不良があったりとトラブルも起こります。そういう場合でもJARの方が打ち上げ成功まで優しく(大会の時はこんなに優しくない)サポートしてくださるので、安心して打ち上げの基礎を練習できることでしょう。

モデルロケットの打ち上げの瞬間、下部から煙を出しながらロケットが上昇している
打ち上げの瞬間

協会以外が主催するライセンス取得講習会

埼玉県が遠くてJARの講習会に出るのは無理という方でも、指導講師が行う講習会に参加できれば、講習を経ての4級取得ができます。意外と各地域で講習会は行われているので、情報を探してみてください。以下にいくつかの例を示します。

また、JARには「認定クラブ」という制度があり、各地のモデルロケット愛好会がリスト化されています。こうしたクラブには必ず指導講師が在籍しています。近くに活動中のモデルロケットクラブがあれば、問い合わせてみるとライセンス取得のサポートを受けられるかもしれません。

中学校・高校・大学に通っていてモデルロケット関連の部活があれば、独自のライセンス取得手段を持っている(顧問教員や先輩が指導講師であるなど)ことも多いはずなので、問い合わせてみるのもいいでしょう。

打ち上げ実績による取得(自力で打ち上げするには)

どうしても講習会を受ける手段がない!という場合は「3回の打ち上げ実績による取得」という手段が残ります。物品の確保から組み立て、打ち上げ場所探しまで全て自力で行うことになるので相応に難易度は高いですが、ヒントとなる情報をお伝えします。

また、本節で説明するモデルロケット用品の買い方や打ち上げ場所の探し方は、講習会でライセンスを取得する方がその後活動していく上でも必要な知識になるはずです。

モデルロケットキットやエンジンを買う

モデルロケットは火薬を使用するので、粗悪品を使うと大事故に繋がりかねません。JARは、モデルロケット関連製品が法令基準に適合しているかどうかを自主的に検査しています。協会の検査を受けた製品には認証シールが貼られるので判別できます。

モデルロケットエンジンA8-3とC11-3のパッケージ。右上に認証と書かれたシールがある
右上に認証シールが貼られたモデルロケットエンジン

現在は通販サイトで気軽に買い物できますが、協会を通しておらず認証シールが貼られていないものも出回っています。認証シールがない製品は安全性が不明であるほか、打ち上げ実績によるライセンス取得や公式の大会出場には間違いなく使えません(ライセンス申請時に、シールを剥がして送る必要があります)ので買わないようにしましょう。JAR認証品を取り扱っている通販サイトの例を示します。

株式会社千代田工業社「わいわい工房」

ケイテック(湘南ロケット)

Amazonでエンジンなどを販売している佐藤貿易さんは、認証シールなしであることを明言されているので、ライセンス取得の用途には使用できません。ご注意ください。

なお、モデルロケットエンジンは、定番のA8-3型エンジンを含めて2022年秋ごろから1年近く品薄の状態が続いていました(メーカの製造停止などが原因のようです)。今は解消しつつあるようですが、一部通販サイトに定価を大きく超える高額でエンジンを売っている事例がみられるのでご注意ください。A8-3の場合、3000円台が適正価格です。

打ち上げ場所を探す

独自にモデルロケットを打ち上げようとするとき、打ち上げ場所の確保が必要になります。例えばA8-3エンジンを使って打ち上げるには、半径15メートルに周囲の建物や道路がなく、見学者や打ち上げ準備所は発射台から20メートル以上離れていなければなりません。従って、少なくとも40から50メートル四方くらいの広さの空地が必要です。
広さ的には十分でも、無関係な利用者が多かったり、周辺に樹木が多くモデルロケットの回収の邪魔になるようだと打ち上げに適しているとは言えません。

学校に所属している方ならグラウンドを使えれば楽そうですが、現実には安全上の理由で認めてもらえないケースも多そうに思われます。河川敷や海岸は開けているので使う人が多いようです。川や海にロケットが落下してしまうと回収困難なので気をつけて打ち上げましょう。
近場でモデルロケットを打ち上げている人や団体を見つけて、適した場所を教えてもらうのもいいでしょう。

pixivFANBOXにてモデルロケット関連の活動をされている任意団体未知求興業さんも、打ち上げ場所確保に関する記事を書かれているので参考にしてください。


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