背景よくわからない!
こんにちは。同人イベントでオリジナルキャラの姉妹が出てくるマンガ「はるなつセンセーション」シリーズを出しているくもゆにと申します。今回はマンガの背景を考える、というお話です。
マンガの背景
マンガの背景、読んでいるときはキャラに注目していてほとんど気にしないのですが、実際に描いてみるとイラストや写真とは異なる表現が用いられていることに気づきます。
単純にカラーのものをモノクロにするだけではマンガらしい背景にはならず、輪郭を強調しつつ濃淡をうまく調整して「ぱっと見それっぽく見える」よう工夫する必要があるようです。
ラクして背景作りたい!
背景を描くのは楽しいのですが、できることなら手間をかけずにぱぱっと作ってみたいもの。マンガっぽい背景を作るにはどうすればいいのか、研究がてらモノクロイラストを描いてみることにしました。
3Dモデルから作ってみる
イチから想像でものを描くのは難しいので、3Dモデルから書き出して背景を作ってみます。
習作ということで、ごちゃっとした背景にしようと、香港の路地裏を描いてみます。背景は3DモデルからLT変換で書き出したものです。これだけでもそれっぽく見えますね。キャラクターはオリジナルキャラの姉妹です。左が姉の遥、右が妹の菜摘です。
お話は香港が舞台というわけではないのですが、たまたま下のような素材があったので……。
背景の3DモデルはCLIP STUDIO ASSETSで公開されているものを使用しています。私はまだパースから直接こうした背景は描けません……。
建物にトーンを入れ、看板に文字を入れました。香港は広東語圏なので、翻訳サイトを使って広東語表記にしましたが、正しいかは怪しいです。フォントはAdobe Fontsから使用しています。
そのままでは文字の印象が強すぎるので、カケアミブラシで文字を削りました。
全体的に汚れをブラシで入れました。
暗がりや隙間の付近にタッチとして縦横の線を入れました。
薄暗さを表すために上部にカケアミを入れてみました。
遥が手に持っているのがカメラだと分かるように紐を加えておきました。全体を調整して完成です。3Dモデルからでも加筆すればそれっぽく見えますね。
写真から描いてみる
写真からも背景を描いてみます。
旅先で撮影した路地の画像です。これをもとに描いていきます。
上からひたすらなぞったのが上の画像です。単純になぞるだけでも1時間以上掛かりました。これでも部分的に描き飛ばしています。何気なく見ている風景にはたくさんの線が隠れていることに気付きます。路地であればなおさらです。
こちらは、CLIP STUDIO PAINTの機能で写真から直接白黒に加工したものです。なぞった線とも、上で描いた3Dモデルからの背景とも情報量の違いが段違いです。
写真をなぞったものと、写真を加工したものを重ね合わせるとこうなりました。
なぞった線画のうち、写真加工の線になかったものを抜き出してみました。ある程度の線は残されていて、1時間以上が無駄ではなかったことが分かります。
なぞった線画を黒、写真加工分を青色に変えたものです。これを見ると、電柱の電線群、石垣のフチなどに、なぞった線画が残っており、写真加工では輪郭が弱くなりがちなことが分かります。言い換えれば、写真加工で背景を作るときは輪郭を強調すればよいということですね。
情報量を落とすため、道路手前のつぶつぶを消しました。背景にはトーンを入れています。マンガの背景は白っぽくすることがコツなのかなと思い、背景のトーンは元写真の色よりもだいぶ薄めです。
キャラを入れて完成した絵です。
参考用の差分として、道路手前のつぶつぶを消さなかったバージョンも作りました。これだと相対的に描き込んでないキャラ部分が浮いた感じになっている気がします。どうでしょうか。
写真から描いてみる(夜)
写真から加筆すべき箇所はだいたい分かったので、今度は昼撮った写真から夜のシーンを描いてみることにします。
旅先で撮影した画像です。
今回はPhotoshopで白黒に加工をしてからCLIP STUDIO PAINTに挿入します。
情報量を減らすため、道路、海、空を消したあと、山の稜線、桟橋の端、海と空を補完しました。空は雲トーンを貼ってみています。これだけでも夜の雰囲気が少し出ていますね。雲のおかげでしょうか。
キャラクターを入れてサイズの確認。電灯は4 m程度、姉妹は150 cmくらいなのでこれでは大きすぎます。姉妹の身長差もここまで大きくありません。このあと二人のサイズを調整しました。
水面にグラデーションを入れ、遠景を暗めにしました。夜のシーンなので電灯に効果をつけて地面のトーンを削り、水面・遠景に明かりを描いています。モアレが気になったので空は雲トーンから素材画像に差し替えました。
キャラは全体的にトーンを貼って暗くしています。明かりが上部にあるので、上側が明るくなるように影をつけています。
完成したものがこちら。結局、空は素材をもとに描き直しました。夜っぽくなった気がします。
夜のシーンだとどこまでトーンを入れるべきか迷いますね。夜の光量を考えれば実際はもっと暗い画面になるはずですが、再現するとマンガでは暗すぎる背景になってしまうと思います。
背景習作を描いて
3Dモデルから1作、写真から2作の背景を描いてみました。
『背景という仕事は、「器を作る仕事」』だと東地和生氏も述べていますし、背景はあくまで背景であるからして、キャラを引き立たせる役割なんだなと感じた次第です。キャラが映えるように、背景制作では情報量のコントロールが重要のようです。
最初に課題として挙げた「ラクして背景作りたい!」については、3Dモデルや写真を使って描く方法があるものの、そんなにラクにはできないよ……ということになるんでしょうか。
もうしばらくするとAIによる画像処理が発達して、原稿の600dpiに耐えられる、安定して素晴らしい背景を描いてくれるのではないかと期待しています。
頒布予告
この記事の検証をするきっかけになったのはこの本を作る作業から。
新刊「はるなつサマーリーサマー」を、コミックマーケット102二日目にサークル「きさろは」にて頒布しますので、ぜひお立ち寄りください。
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