明治維新よりもカッチョイイこと


小学校に入学したとき。初めて「としょしつ」なる場所に入ったとき。


いわゆる"なぜなに坊や"だった僕は心の底からワクワクしました。この世にはまだこんなに知識があるのかと、まだこんなに知ることがあるのかと。知識って「ゴリラの血液型はほぼほぼB型」とかで打ち止めじゃなかったのかと。そんな高揚感に身を昂らせながら図書室を練り歩くと、「まんがでわかる 坂本龍馬」という本を見つけました。


その瞬間、心に決めました。最初に読むのはこれにしようと思いました。なんせ私の本名の由来になった歴史上の人物です。どれくらい凄いことをしたら後世で名前をパクられる羽目になるのか。「めいじいしん」とやらを成し遂げたことは親から聞いていたけれど、それはどのくらいの凄いことなのか。コロコロコミックで育ち、漫画といえば鼻くそとうんこしか読んだことない僕に、そんな凄いことを、漫画で教えてくれる。素晴らしい本です。僕がこの「としょしつ」で最初に得る知識は、坂本龍馬にするべきなんだ。そう思ったらいてもたってもいられず、僕は席にもつかず、「まんがでわかる 坂本龍馬」を読み始めました。








「坂本龍馬は、子供の頃とても気弱でした」






「坂本龍馬は、ヘナチョコのいじめられっ子でした」






「坂本龍馬は、13歳までおねしょが治りませんでした」















まあ、わかるよ。そんなヘナチョコがそこからどうやって変わっていって、最終的に日本の近代史に名を残す傑物となるのか。そういうことを語るための布石なんだろうね。今だったらわかる。でも当時の僕は生まれてたかだか6年しか経っていなくて、物語の構成なんてわかりっこなく、ただただ情けない気持ちになってその本を閉じ、その日は授業も手につかず、友達の遊びの誘いも断って、しょぼくれた顔で帰路に着いたんです。


家に帰ったら、中学の入学祝いで親から10万する大理石の灰皿をもらった、札付きのワルの母親が、ニンテンドー64「マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー」を人殺しぐらいの据わった目つきでプレイしていたので、図書室で起きた事の顛末を話しました。図書室で坂本龍馬の本を見つけたと。読んでみたら13歳までおねしょが治らんヘナチョコだったと。自分の名前の由来になった人物がそんなヘナチョコでとっても悲しかったと。そうしたら母親は、テトリスの手を止めぬまま、こう言いました。








「お前は1歳でおねしょ止まったよ。スゲェじゃん」











俺は








坂本龍馬の13倍早くおねしょが治った男だ


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