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5年メンテしてきた大学のデータベースを捨てた

tayoという研究者向けのプロフィールサービスを行っているものです。
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さて、弊社では毎週、CTOと僕で「プロダクト会議」というものを行なっています。
tayoの開発やその方針に関して役員二人(経営陣はこれで全員)が話し合うというだけなのですが、原則フルリモートで経営する弊社において唯一のオンサイトで実施する社内会議。僕にとっては企業活動の中で一番楽しくて一番疲れるイベントです。

元々非公開の人材データベースだったtayoを実名公開のプロフィールサービスに変えたり、最近では「活動スコア」という研究者の活性を示す指標を開発したり、tayoのイノベーティブな開発のアイディアはだいたいプロダクト会議で生まれています。

ふと思い立ったので、プロダクト会議でどんな話が行われているか、先日そのプロダクト会議で話した内容を記そうと思います。
スタートアップ経営者が何を考えて自社サービスの開発に臨んでいるかの一端が垣間見えれば幸いです。


さて、tayoは2019年のサービス公開当初から国内の研究機関のデータを持っていました。
データを持つとは下記のようなデータベースを内部的に持っていたということです(あくまで例です)。

研究機関名, 研究機関ID
東京大学, 1
京都大学, 2
...

tayoにプロフィール登録をする際は、所属大学や学歴の情報の記載に際しては上記のようなリストから選択する形式でした。

こうすることのいちばんのメリットは大学名の表記揺れに強いことで、「慶應大学 / 慶應義塾大学」「東京大学 / The University of Tokyo」といった単一の大学に複数の表記が生じてしまうことを避けることができます。
また、副産物として「国際信州学院大学」のような架空の大学の入力を防ぐことができます。

一方デメリットとしては、
・新しい学校ができたとき(例:大阪公立大学)に都度追加対応をしなければいけない
・海外大学の網羅が難しい(というか無理)
などがあります。

結論を言えば、tayoでは研究機関のデータベースを内部に持つのをやめ、フリーテキストで入力する形式にしました。
これによりサービスリリースから5年間、表記揺れの無いデータを維持してきた意味が水疱に消えました。
また、不可逆な変更なので今後tayoでは国際信州大学の学生の受け入れを拒否することが不可能になりました。
さらにこれまでコツコツとメンテしてきた「国内の大学および公的研究機関、さらにtop2000の世界の公的研究機関」などが含まれる大学のデータベースを捨てることになりました。


そもそもなぜ大学のデータベースを持っていたのでしょう。
まず、基本的に既存の求人サイトの多くは似たアプローチをしているはずです。
人材サービスのマネタイズは企業の採用活動のサポート。企業が採用活動を行う際には「東京大学」で検索する必要があり、その際に「The University of Tokyo」が引っかからないのは困るわけで、表記揺れを避けるために名称を統一する必要があります。
うちの会社も人材系サービスとしてBtoBでのサービス提供を見越して大学名のデータベースを持っていたのでした。
なので、「大学名のデータベースを捨てた」というのは、「大学名での検索・フィルターをサービスとして未来永劫諦めた」ということです。


なんでそんな意思決定をしたのか。一つは、サービスの開発当初とは想定していた顧客が変わってきたというのがあります。
サービス開発当初は、主に大企業に博士新卒を紹介する予定でした。大企業の人事部は一般的には文系学部卒の方が多く、基本的には優秀な大学の学生をどれだけ取れるかといったことを目指しています。
従って、彼らにアプローチするためには「トップ大学の学生多数!」「XX人の東大・京大生が登録!」「情報系学生も多数!」というような広報戦略になります。

しかし、サービスを運営し、色々と博士のキャリアをめぐる状況を眺めて思ったのは、「果たしてそんなところに博士を送り込むのが良いことなのか?」ということです。

日本企業は島国で人材の多様性が低い日本の特性を最大限利用し、メンバーシップ型の新卒採用という強固なシステムで似通ったバックグラウンドを持つ人材を採用することでコミュニケーションコストを低下させるという成長戦略をとってきました。

それ自体は良いことだと思うんですが、そこに博士人材のような外れ値を投入することが企業と人材の双方にとって良いことなのか?というと結構微妙な話になってきます。


ではどこに入れるのがいいのか。大企業ではなく、技術への理解の深い中小企業や大学発ベンチャーなどの比較的小規模な組織を博士の民間ファーストキャリアの受け皿とするのが良いと思いました。組織のサイズがアカデミアの研究室に近しいので仕事のやり方にギャップも生まれづらいですし、もし数年働いてやはり大手に行きたいとなれば中途人材として転職することもできます。

そんなことを考えて、tayoとしては「中小企業や大学発ベンチャー、そして博士人材の扱いが豊富にある一部の大企業」をターゲットにして職業紹介を行うことにしました。


ここでデータベースの話に戻ります。「中小企業や大学発ベンチャー、そして博士人材の扱いが豊富にある一部の大企業」このような会社は基本的には大学名ではなく研究内容をしっかり見て判断するので、「登録者の中で東大生だけ紹介して欲しい」というような要求があまり生まれないのです。


当然これは直近のtayoの戦略の話であり、将来的にやっぱり大企業向けの人材サービスをやる可能性はあります。しかし、弊社のターゲットとする登録層のメインターゲットが博士新卒 ~ 特任助教ぐらいであることはおそらく変わらないので、このような方々を扱う以上顧客が変わっても雑な大学名でのフィルターとかはあまり意味がないだろう、と思いました。


そんなことを考えて、tayoでは大学のデータベースを廃止しました。この意思決定がなされたのが5/27で、6/6の現在では既に本番環境に実装されています。
このように、「データの持ち方をどうするか?」というソフトウェア開発の一つ一つの意思決定をビジネスロジックに基づいて行うことができ、決めたら高速で実現する技術力を有するのが弊社のいちばんの強みだと思います。


大学のデータベースを廃止したことによる副産物として、これまで研究業績しか対応していなかったresearchmapからのデータインポートが学歴・職歴でも対応可能になりました。(これまでは自前で持っている大学のデータベースとresearchmapのデータの名寄せ・紐付けが不可能だったのです)
この対応も近日中には公開できると思います。


ということで、珍しくどういうことを考えてtayoを作っているのか、みたいな話をしてみました。
いまtayoは営業・キャリアアドバイザーなどを求めていますので、ご興味ある方はご連絡ください。


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