『ゼロサム・ガン』本編

〇「見回りに行ってきます」そう言って派出所から出ていく田口。自転車に乗っていく。交番の中では何やら三浦が書類を書いている。

〇田口は公園のトイレに入っていく。個室の中に座る。そして、一息してから拳銃を取り出すと自分のこめかみに向けて引き金を引く。

〇その個室のトイレの横には悠人がひとりでいた。映画で聞いたような、爆発音が隣からした。悠人は個室から出る。隣の個室にはドアが閉まっていなかった。戸を開ける。そこには田口の死体。壁面はざくろ色に染まっていた。田口の手元に拳銃が握られている。それを見た悠人は自分の鞄からカッターを取り出し、拳銃につながっているコードを外す。人は拳銃を握りしめる。拳銃を鞄の中に入れ外に出ていく悠人。

〇公園では悠人と同学年くらいの学生たちが爆竹で遊んでいる。その中にいる結実、悠人を見る。悠人もチラと結実を見た。

〇テレビでは田口の自殺が報じられている。上司と話している三浦。
「拳銃の紛失に関してはまだ情報を伏せている。マスコミに情報が行くのは時間の問題だ」
「お前、田口の自殺の原因知らないよな?」
「まったく見当もつきません。あいつは仕事もできるし、いい奴でした」
三浦はそう言った。

〇三浦、自宅に帰る。そこには同棲している理名がいた。理名はスマホで田口の自殺関連の記事を見ていた。結婚を間近に控えているふたり。
「大丈夫だった?」心配される三浦。
「ああ、なんでもないよ」「私に隠してる事ないよね?」
「ああ」
夢でうなされている三浦。理名は心配そうに三浦を見た。

〇朝、出勤していくふたり。「うなされてたよ? 本当に隠して事…」「だからなにもない。何も詮索しないでくれ!」三浦は思わず理名に声を荒げた。

〇理名はとある学校へと入っていく。授業をしている理名。その教室の中には悠人がいた。理名は世界史の授業を始める。キューバ危機についてだ。

〇三浦は派出所で上司から連絡を受ける。
「拳銃の紛失が漏れた。話したのは発見者のガキどもだ」
崩れ落ちる三浦。

〇学食で、恋人の朱音と話している悠人。そこに結実がやってくる。
「悠人くん、ちょっと話があるんだけどいい?」結実を見る悠人、彼女についていく。学校の屋上に来るふたり。
「銃、持ってるでしょ?」結実は言った。悠人に結実は、彼女の友人たちが発見した警官の遺体について話す。「あなたが、あの現場にいたことは私が見てる。誰にも話してないけど」
「人違いだ」
「見せて。じゃないと話す」
結実は悠人を脅す。脅された悠人は逆上し、結実に「僕がもし拳銃を持っていたとしたら、君を真っ先に殺すよ」と言った。

〇自宅で拳銃を見ている悠人。その銃を何度も撫でている。結実の声がよみがえる。「見せて」

〇悠人は結実がバイトで働くスーパーへと向かった。結実に近づく悠人。悠人はおもむろに自分の鞄に手を入れる。それを見て焦る結実。悠人は結実に、「バイト終わるまで待ってる」そう言った。そんな様子を店長の吉岡は見ていた。

〇バイト帰りの結実、悠人と会って河川敷へ。悠人は結実に拳銃を見せる。「これ持ってるとなんか強くなったような気になれるんだ」そう言う悠人に結実は言う。「悠人君はもとから強い人じゃないの?」「そう見えるだけだよ。君だっていつもヤンチャな連中とツルんでるだろ?」
「私? 私は何もない人間だから誰かと一緒に居る事しかできないの」
「誰かに言う?」かぶりを振って結実は去っていった。

〇マスコミに追われながら警察署に入る三浦。三浦は休職処分を言い渡される。「あの拳銃がどうなるか。それでお前の進退が決まる」

〇自宅に帰った三浦は理名からも愛想を尽かされている。何も話してくれない理名。

〇悠人、バイト帰りの結実を待っている。結実がスーパーから出てくる。彼女の後ろからついいてくる吉岡。悠人はふたりをつけていく。途中、悠人が追いてきていることに気付く結実。帰路で結実にもたれかかる吉岡。悠人は拳銃を取り出すと吉岡に狙いをつける。と、結実は吉岡を振りほどいて去っていった。

〇自宅に戻った悠人、息を整えている。恋人の朱音から連絡が来るが、それを無視している。拳銃を見て落ちつける悠人。

〇河川敷にひとりでいる結実。結実、爆竹に火を点けている。そこへやってくる悠人。
「見せて」
拳銃を見せる悠人。結実は拳銃にペディキュアを塗る。
「おい」
と、悠人は言うが止めない。
「ああいうヤツと付き合ってるんだ?」
「私が何をしようが私の勝手。言ったでしょ。何もないんだ私。何になりたいとか、どうしたいとか、空っぽなんだ」結実はそう言った。
破裂する爆竹。
「あなたはさ、私の事が好きなの?」
何も言わない悠人。
「じゃあさ、殺してくれる? アイツの事。壊してみせてよ、世界」
結実は悠人に挑戦するように言った。

〇田口の葬式が行われている。
上司から、「ここには来るな」と言われる三浦。しかし、無理やりに参列する。遺族に話しかけられる三浦。「アイツ言ってたんですよ。警官になれて嬉しいって」何も言えなくなる三浦。

〇深夜の公園。そこは田口が自殺した公園。テープが張られ立ち入り禁止となっている。そこにやってくる三浦、酔っている。目を凝らすとブランコに誰かが乗っている。それは悠人だ。思わず、声を掛ける三浦「君、ここは」となるが「まあいっか」と諦める。
悠人と話す三浦。
「オレの友達がさ、パワハラしてる奴でさ、そいつの部下が自殺したんだ。そいつこれからどうすんだろうな?」
「その友達よりも死んだ人の事は気にならないんですか?」
悠人は言った。
「オレみたいにつまんない大人にはなるなよ」
三浦を見る悠人。

〇悠人の夢。結実がいる。「壊してよ、この世界」悠人は結実の口に銃口を入れる。引き金を引く悠人。

〇学校で理名の授業を受けている悠人。理名はどこか不機嫌だ。悠人、結実に呟いた。「今夜、殺るよ」結実、驚くが笑む。「嬉しい」
それを見ていた恋人の朱音は、理名に結実が援助交際をしていると話す。

〇深夜、路上で吉岡をつける悠人。悠人は吉岡に声をかけると拳銃を構えた。じっくりと狙いをつける悠人に吉岡は飛びついた。暴発する拳銃。吉岡を外し、街灯へ。さらに吉岡を撃つ悠人。今度は彼の脇腹へと当たる。悲鳴があがる。「痛いよ、誰かー助けて」その子供の様な泣き声。逃げていく悠人。そこには学生証などの身分証明書が落ちていた。

〇河川敷にいる悠人。吉岡の声が頭からこびりついて離れない。震えている。

〇早朝、酒に酔った三浦は吉岡の現場を偶然通る。吉岡は一命をとりとめたらしい。彼は拳銃の事を聞き、警官を脅す。「××学校の学生証が見つかったそうです」警官は言う。

〇学校で理名から詰問されている結実。援助交際について尋ねられている。結実、怒りをこらえた目で。悠人、結実に吉岡を撃ったと話す。「じゃあ、次はあの女殺して、世界史の授業の」

〇三浦、高校に着く。授業が終わって、理名が教室から出ていく。それを追いかける悠人。悠人、階段の後ろから「先生」と理名に声をかけ、鞄から拳銃を取り出す。構えて、狙いをつける悠人。その時後ろからやってくる三浦。三浦は悠人に「殺すな!」と叫んだ。
悠人、三浦に銃口を向ける。混乱した悠人は拳銃を天井に向けて撃つ。その音に怯む三浦。逃げていく悠人。追いかけていく三浦。

〇学校から出て、田んぼ道で後ろを向いて発砲する悠人。三浦、悠人に追いつき拳銃を奪う。「オレはオレの責任を果たす。だから、誰も殺さないでくれ」悠人は息が上がっている。そして狂ったように泣き出した。地面に落ちている拳銃。

〇テレビの映像。会見に出席している三浦。「私は、田口巡査に習慣的な暴行を働いていました」頭を下げる三浦。

〇その映像を自宅で見ている理名。やりきれない表情で。

〇少年院にいる悠人。刑務官に姿勢の悪さを注意される。悠人、その刑務官に向かって手で拳銃のポーズを作る。

〇結実、学校にいる。階段で、天井に空いた一発の銃弾の跡を見る。そして、手で拳銃の形をつくり、小さく「バン」と呟いた。
〈了〉








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