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異業種交流会などで名刺交換をすると、私の肩書きの与信管理コンサルタントを見て、「与信管理って何ですか?」と聞いてくる人が多い。

業界関係者や、業務に携わっている人以外、「与信管理」と言う言葉が、一般的ではない証拠だ。

「与信管理」の「与信」とは文字通り信用を与えることである。信用を与える、供与すると言う言葉は、英語のProvide Credit, Grant Creditから来ているようだ。

では、信用を与えるとは具体的に何を指すのか?

企業間取引においては、商品や役務の提供とその対価の支払は同時には行われない。いわゆる、Cash On Deliveryではなく後払いが主流だ。

請求書を発行して、後日振り込みなどで支払ってもらうことを掛け売り、売掛取引などという。

売掛取引を認めることを「信用を与える」「与信する」という。

銀行などの金融関係であれば、信用を与えるとはすなわち、融資をすることである。

そして、信用を与えた取引先が約束通りに、つまり支払期日に代金を支払ってくれるか、条件通りに返済されるどうかを管理することを「与信管理」と呼んでいる。

「信用管理」や「債権管理」と言う場合もある。

だから、小売りや飲食業など現金商売が基本の業種には、基本的に与信管理は必要ない。

もちろん、与信管理には実は「買いの与信管理」という考え方もあり、調達や仕入のリスクを軽減させる上での信用管理は必要である。

こうした売掛取引や融資が条件通りに支払されない場合、こうした債権を「遅延債権」、「滞留債権」、「延滞債権」などという。

そして、長期間にわたり未払い状態が続き、回収の見込みが立たなくなったものを「不良債権」、「貸倒」、「回収不能」などという。

では、与信管理の目的は何だろう?

「不良債権の発生を防ぐ」と言う声が聞こえてきそうだ。

確かにこれは与信管理の大きな目的である。

しかし、不良債権の発生を防ぐだけであれば、ちょっとでも危ない取引先には与信しない、あるいは、前払でのみ取引するとすればいいだけである。

気になる取引先はどんどん切っていけばいいのだ。

しかし、こうなると、企業の至上命題であるところの売上を増加させるという目標が達成できなくなってしまう。

もし、売上については全く気にしない、横ばいどころか、減ってもかまわないし、増えればそれもまた良しと達観している会社があれば、与信管理は必要ない。

一般の会社は、経営計画などで売上を何パーセント増加するという目標を設定しているはずだ。

売上が1割増加したが、不良債権も2割増えたというのでは、与信管理をする意味がない。

売上を増加させつつ、不良債権を減少させるという、ある意味矛盾したことを行うのが与信管理なのである。

こうした点を踏まえ、私は与信管理の目的をこう定義している。

「与信管理と債権回収の最適化を図り、売上を増加させながら不良債権を減少させ、キャッシュフロー増大に貢献すること」

与信管理と債権回収の業務を特に意識して区別していない方も多いと思うが、敢えて区別すると、「与信は入口、回収は出口」と言うことができる。

この2つは相関関係にあり、一般的に入口での基準を厳しくすれば、出口の業務は楽になる。入口での基準をゆるめれば、出口の業務は大変になる。

どこまで厳しくすればいいのか、どこまで緩ればいいのか、この最適解を各企業は常に模索していると言える。

与信管理と債権回収の最適化といい、売上の増加と不良債権の減少の実現といい、与信管理とは相反すること、矛盾することを行う仕事なのである。

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牧野和彦 ナレッジマネジメントジャパン株式会社 代表取締役 / 博士(経営情報)
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