葡萄前進! ―ショートショート―
お題、というか多田一穂さんに「これをタイトルで書いてみたら」と言われたので書いてみたいと思います。
きっかけとなったノートがこちらです
お題「葡萄(ぶどう)前進」
どうやらイラストかコミカライズしてくれるらしいです!(すごい!)
性格が悪いのであえて描きにくそうな話でも書こうかな!
………………
ぴゅぼぅるるるるぅ。
「東より弾丸飛来! 衝撃に備えよ!」
弾丸は、私の隣のリンゴ隊長に命中するが、彼は「何のこれしき」と跳ね返した。歯ごたえこそが彼の強みである。たかがスイカの種ごときにやられてしまうような男ではない。
だが、無傷では済まなかったようだ。
「隊長! 額から蜜が垂れております!」
私は慌てて皮で止蜜をする。でなければ、リンゴ隊長の傷が酸化して黒ずんでしまうのだ。しかし隊長はそれを制した。
「慌てるでない、葡萄一等兵。貴様には貴様の任務があるだろう」
「しかし私など一房の酸っぱい葡萄でございます! 甘さで絶対的な強さを誇るリンゴ隊長になどとうてい及びません! 私などよりも、リンゴ隊長を――ぶはぁ!」
「馬鹿者!」
リンゴ隊長のビンタが、私の一つの葡萄の実を吹き飛ばした。
「貴様と私は異なる果物だ。貴様に代わりなどおらんのだ。葡萄であることを恥じるな。誇りに思え! そして何よりお前は勘違いをしておる!」
「えっ……」
「リンゴ酸とブドウ糖――つまり、貴様の方が甘いものなのだ。貴様は、私の上を行く資格がある!」
「し、しかし隊長、それは……」
「深く考えるでない。今は、憎きやつら、野菜国を滅ぼすことにのみ思考を働かせよ!」
「は、はっ……!」
時は2XXX年。
野菜と果物の戦争は長らく続き、当初圧倒的優位と思われた果物国であったが、主力と言われた苺やスイカ、メロンの野菜国への寝返りにより今や戦況が翻りつつあった。
我ら果物国の危機――しかしリンゴ隊長は諦めるようなことなどしなかった。
しゃきしゃきとした歯ごたえとみずみずしさを兼ね備えるリンゴ隊長は、必ずや勝利できると信じて疑わない。しかし――。
「む、無理です! 隊長は今、お怪我をなさっているのです! それなのに果汁飛ばしなど……」
「自殺行為なのはむろん承知しておる。しかしあやつらを打ち倒すにはそれしかないのだ」
「だ、ダメです!」そして私は言った。「だったらこの私が、行きます!」
「なっ――」
「言ってくれたじゃないですか、隊長。私はあなたを越える資格がある、って……」
「だ、だが……」
「行かせてください、お願いします!」
スイカとサクランボの種が飛び交うこの戦場で、リンゴ隊長は熱い蜜を流した。彼の瞳から漏れるそれは、とても甘く、やさしい香りがしていた。だからこそ、私が行かなければならないんだ。
「隊長、命令を!」
「………………」
くちびるをかみしめる隊長であったが、やがて彼は言った。
「葡萄前進!」
その声と共に、私は飛ぶ種の中を駆けた。
………………
※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください。
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